「そりゃ、営業だから、接待もあるし、飲まずに通らないこともあるよ。だけど、それは仕事の一部だからな。そう自分から飲んでいたのでは仕事に影響出るだろう。」と、夕子はすっかり男言葉になっていた。 「全然出ません。むしろプラスになりますよ。酒場が出会いの場所になって、仕事に結びつくこともあります。社交の場と考えたらいいんじゃないですか?」 「それもそうだけど、私ならこんなところで飲むくらいなら、もう一軒会社を訪問するな。その方が効率がいい。」 「それは僕も普段はそうしています。ただ朝霧さんと飲みたいと思っただけですよ。」と言って、結城は彼女の顔をじっと見た。夕子も見返した。結城は続けた。 「朝霧さんと飲むと楽しいですよ。これからもたまには付き合ってもらいたいと思っています。」 「たまにはいいよ、私も。」と言って夕子はジョッキを持ち上げたが、飲まずにまたテーブルに置いた。 「行きつけの店もありますので、また案内します。前の仕事仲間とか、知り合いも何人かいます。」 「へー、楽しそうなところだな。一度行ってみるよ。」 「そうこなくちゃ。いつでもいいですよ。朝霧さんの気の向いた時でいいです。」と言って結城は美味しそうにビールを飲み干した。夕子はまだ半分ほど残していたが、一度会社に戻るので、これ以上は飲まないと言った。結城も会社に戻ることにした。 8 豊製薬との打ち合わせも順調に進んで、契約にまで至った。撮影にも夕子と結城は立ち会って、放送までの準備段階にぬかりは無かった。結城の夕子への誘いは二度ほどあったが、ビール一杯で切り上げた。 結城が大手A飲料会社の社員を知っているというので、夕子は一緒に会社訪問して、担当者を紹介してもらった。大手だけに広告会社は決まっていて、新たに他の会社に出すのは難しいとのことだった。しかしアイデア次第で可能性もあることを示唆された。 「だめもとだから、知り合いが出来ただけでもいい。」と訪問を終わって、夕子は結城に言った。「ところであの社員も例の居酒屋で知り合ったの?」
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