簡単な食事が終わって、みどりの愚痴を聞いていると、外の食事から戻ったデザイナーの女性社員ふたりも夕子たちの会話に加わった。彼女たちの話題もやはり男性のことだった。社員のA君に恋人が出来て今どこまで進んでいるとか・・・。どうしてそんなことがわかるのか夕子には不思議だった。彼女は面接の準備があるからといって、三人を残して席を立った。 面接は簡単な適正試験を済ましてから、始まった。応接室に一人目が呼ばれた。長身の、頭髪は短く刈ったスポーツマンタイプの体格のよい男性が現れた。スーツをきちんと着こなしていたが、どこか落ち着きのなさがしぐさに表れていた。着席してから何度も身体を揺すっていた。総務部長の説明を聞いている間も何度も居住まいを正し、視線が定まらなかった。一通りの会社説明が終わって、今度は本人が業務経験の話をする番になった。彼によれば自分は印刷会社の営業で、新規開拓、得意先廻りをしてきたが、特に不動産会社の物件情報誌を手がけてきた、5年間はその発行の仕事に専念してきたのだった。しかし、最近はインターネットの普及で、物件情報をそちらの媒体に掲載する会社が増え、雑誌は衰退してきた。自分も危機感を覚え、会社に方向転換を迫ったが、受け入れられず相変わらず、紙媒体に頼っている。このままでは将来性もないので転職をして、自分のやりたいことが出来る職場を探していると言う事だった。 「それでうちの会社に応募した理由は?」 と総務部長が訊いた。 「新しいことにも挑戦すると聞いたので。」 「誰から聞いたの?」 「誰からということはないですが、そういう評判なので、それにホームページにもそ れに類することが書いてありました。」 「『広告業界のパイオニア』ということ?」 「そうです。それです。」と言って彼は盛んに身体を揺すった。それは彼の癖だっ た。 「それで、あなたは広告がしたいんですか?」と部長が訊いた。 「はい。したいです。雑誌の出版には限界を感じていますので、是非とも広告の仕事 がしたいです。」
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