夕子は少し気になったが、石田課長との話に夢中になった。やはり社長は出版を考えているとのことだった。それで、夕子もスタッフの候補に上がっているらしい。最初は小部数の発行で、次第に拡販をしていくが、軌道に乗るまでは少人数で行うらしい。人事は他からも有能な編集者を呼んで、失敗はしないように慎重にするということだから、心配はないと思うが、当社の性格も変わってくるだろ。「やっぱりね。豊の関本さんに聞いたとおりだわ。そうすると、かなり関本さんは信頼されているのね。見直さないと。」 「あまり社長は公言していないので、僅かな人の一人かな。関本さんは大切にしておいてくれ。」 「勿論ですわ。なかなか太っ腹な人ですね。将来役員かもしれない。」 「俺もそう思う。」と課長は真顔で答えた。 次第に会場の狭い部屋は談笑の声で沸くようになり、大きな声を出さないと聞き取れなくなった。どうやら、司会者が何か言っているようだ。司会者は新入りの挨拶を要求しているようだ。次第に、会場は雑音が低くなり、司会者の声も聞き取れた。まず、大きな拍手が沸き、向井が立ち上がった。人前でする落ち着きのない様子は直っていなかった。課長も打ち合わせで指導してはいたが。しかし、声は張りが有り、意欲に満ちていた。会社のもてなしに感謝し、仕事のしがいがあると言った。趣味はスポーツで、バスケットボールを今も高校時代の友達と休日にやっている、野球も好きなので、将来は会社のクラブを作りたいという希望を述べた。 次に、結城が挨拶に立ち上がった。彼も社員のもてなしに感謝し、仕事への意欲、仕事の拡大の意欲などを述べて、終わった。個人的な趣味は言わなかったので、質問が飛んだ。特にないが、車は好きで、休みの日には ドライブをすると言った。すると、誰を乗せて行くのか、と誰かが言った。みんな笑って、答えを迫った。それは曖昧にぼかした返事だった。
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