「ところで、うちの社長の出版社立ち上げの話はその後何か聞きましたか?」と夕子は話題を変えて言った。 「いや、何も聞いていない。あれ以来横山さんとは会っていないので。忙しいからこられないのでしょう。」 「そうですか。社内の人に聞いても出版の話はないみたいで、噂も立っていません。きっと、社長の気まぐれで、本心ではないという人もいます。」 「はい、わかりました。寝ないで考えます。」と結城は意欲を示した。 「それでこそ、男だね。期待しているよ。会社に戻ったら資料を渡すから。」夕子が言い終わらないうちから、結城はもうなにやら考えている様子だった。結城の視線は窓の外をさまよっているようでもあった。 ふたりが会社に戻ると、石田課長と向井はまだ戻っていなかった。他の営業マンも半数は外出中である。夕子は明日のアポイントを取るため、幾人かに電話をかけた。結城も明日は一人で会社廻りをするため、知り合いに電話をかけ始めた。夕子がトイレに立つと、みどりが廊下まで彼女を追いかけてきた。 「結城さんと一緒だったでしょう、どうだった?」とみどりが聞いた。 「どうだったって、普通の人よ。まだよくわからないけれど、意欲はあるわね。それに素直だし、やってくれると思う。」 「よかったわね。夕子と気が合いそうで。羨ましいわ。」 「何言っているのよ。競争相手よ。止めて頂戴。いちいち妄想するのは。今度歓迎会をするから、みどりも大いに仲良くなったらいいわ。」 「いつ歓迎会するの?」 「来週ね。水曜日がいいと思うけれど、みんなの都合がつけばいいけど。今日確認するので、決まったら言うわ。」 「私はオッケイよ。出席ね。」 と言ってみどりは席に戻った。
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