「今度行くところも、社長が直接営業しているようなところなの。そこの部長とうちの社長とは懇意なの。前にいた会社の時から。」 「それじゃ、長い付き合いですね。朝霧さんもやりにくいでしょう?」結城は自分だったらできないと思いながら言った。 「社長の影みたいにはなりたくないわね。それは今のところまだないけれど。社長からもほとんど何も言ってこないので、任せてもらっていると信じているけれどもね。」と夕子は少し弱気になって言った。 「まあ気にしなくてもいいと思う。仕事を出してもらううちは朝霧さんの実力ですよ。これからもっと増やせばいいことだし。」 「ありがとう、そういってくれて、そう思わない人もいるから。」 「自分ひとりで何もかもできる人はいないと思います。だけど成功を嫉む人は自分ひとりの力じゃないことを強調したくなるのでしょうね。だから、自慢せずに謙虚でいることが難しいのでしょう。」 「分析してくれるわね。外見は謙虚でいることね。難しいけど。私は自己主張が強いから難しいわ。そういうタイプを演じるのは。」 「そうですね。僕もできませんけど。」 ふたりは顔を見合わせて笑った。夕子は今までにない感情が涌くのを覚えた。結城もやはりそうだった。 豊製薬でも、夕子は関本部長に冷やかされた。いい部下が入って彼女も楽になったろう、これからは仕事ばかりじゃないと意味不明なことを言った。夕子は先ほどもからかわれたと言った。部長は笑っている。 「ところで、うちの社長の出版社立ち上げの話はその後何か聞きましたか?」と夕子は話題を変えて言った。 「いや、何も聞いていない。あれ以来横山さんとは会っていないので。忙しいからこられないのでしょう。」 「そうですか。社内の人に聞いても出版の話はないみたいで、噂も立っていません。きっと、社長の気まぐれで、本心ではないという人もいます。」
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