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作品名:当世女性気質 作者:石田実

第20回   20
「僕はグルメではないです。友達はグルメが多くて、よく講釈を聞きますけど。ラーメンに凝っているのもいます。行列をしてまで食べに行くといっていますが。僕はそんなの御免だ。そうまでして食べたくない。」
「そうね。私もそうだわ。食に執着するほうではないわね。」
「でしょうね。朝霧さんはそうみえません。
むしろ仕事に夢中になるほうでしょう。」と結城は思わず言った。
「そう、気がつくと夢中になっていたのがわかるときがある。どうしてなのかと思ったりするけれど。」と夕子は平然と言った。
「仕事以外に趣味はありますか?」結城は思い切って聞いた。
「趣味ね?あまりないけど、旅行はするわね。勝山さんという事務の女の子と偶に。」
「どんなところに行きました?」
「この前は千葉の海岸。一泊だけだけど。あら、もう混んできたわね。そろそろ出ないと。」
「出ましょう。」と言って結城はコーヒーの残りを飲み干した。
 外は夏の日差しが強く、汗が噴出してきた。ふたりとも汗を拭きながらJRの駅に急いだ。ともかく電車の中のほうが涼しい。すぐに電車に飛び乗った。
「少しはいいわね。こちらの方が。」と夕子はまだ薄く汗を浮かべた顔を結城に向けた。
「だいぶ涼しいですね。」と結城も額の汗を拭きながら言った。二人とも上着は着ていられないので手に持っていた。鞄も持っているので、片手で汗を拭いていると電車の揺れもあって、体が接触するのだった。結城は腕が裕子の胸に当たるのを感じた。夕子はそれを意に介しなかった。夕子の豊かな胸が結城には感じられた。
 夕子は揺られながら、これから訪問する某飲料会社の説明を結城にした。結城は夕子の説明からその会社の社長とうちの会社社長が古くからの知り合いだということがわかった。やはり夕子の顧客ではなかったのだ。夕子の顧客を自分に紹介するとは思われなかった。いずれは自分が営業を任されるだろう。
 電車を降りて訪問先までの途中、またふたりは汗が滝のように流れるのを感じた。陽はまだ上空にあり、焼けるような陽射しを降らせた。車のガラスやフレームから輝く光が発射されて、眩しかった。ふたりはなるべく影沿いの道を急いだ。ホールに入ると急に冷やりとした。また汗を拭いてしばらく涼んでいた。それから、受付で用件を言って、面談室に通された。近くの自販機で冷たいジュースを買う。


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