午前中はデスクワークで瞬く間に過ぎた。 正午近く、社内は食事に出る社員のため、静かになった。夕子は同僚の勝山にパンとサラダを頼み、社内で済ますつもりだった。勝山が戻ると、二人は入り口に近い、打ち合わせコーナーの席に就いた。そこは社員の昼食のために解放されていた。勝山みどりは夕子にお弁当代のおつりを返しながら、訊いた。 「面接に来る人どんな人?」 「うーん、そうね、『大日広告』ともう一人はどこだったかな、何とか印刷と言っていたわ。」と夕子は不意の質問にさっき部長から渡された経歴書を思い出しながら応えた。 「いくつぐらい?」みどりは興味深げだった。 「28歳と30歳だったかな。」 「へえー、割と若いのね。最近では珍しいわね。それでどんな感じ。」 「どんな感じって、まだ会ってないのよ。これから会うんだから。」 「でも、履歴見ればわかるでしょ。写真貼ってあるの。」 「そりゃ貼ってあったわ。でもよく見ていない。要は性格だから。素直な子なら私は採用するわ。」と言って夕子はハムサンドを頬張った。 「私はかっこいい子の方がいいわ。」とみどりは外見にこだわっている。そういえば会社には格好のいい男性はいなかった。みどりが期待するのも無理はなかった。彼女は何かというと男性の話をするのが好きだった。社内の男性の話をよく夕子に聞かせた。夕子はそんな話が好きでなかったので、いつも聞き流していた。鬱とおしい時もあった。あきれるときもあった。軽蔑するときもあった。怒れるときもあった。 「お願いだからかっこいい子の方を採って。」 「だって、決めるのは総務部長だもの。私はただ同席するだけ。決定権はないわ。」 「うちの部署の配属よ。夕子にも決定権はあるわ。」 「私はさっき言ったように人柄次第。その人に仕事への熱意があれば石田課長に推薦します。」 「アア、残念。きっと仕事ばかりする人を採るんだわ。もううちの会社はそんな人ばかり。女性に興味がなくて、遅くまで仕事して、遊びに行かない人ばかり。」とみどりは嘆息を漏らした。最近、みどりを誘う人がいなくてよく夕子に愚痴をこぼしていた。特に好きな社員がいるわけではないが、結婚願望が強い彼女は誰か自分を誘惑して、プロポーズをしてくれることを夢見ていた。だがこの会社に限ってまだ一度もそんな男性がいたことはなかった。
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