5 いよいよ、中途社員の出勤の日が来た。朝礼で、二人は紹介された。その後で、夕子は 課長と彼らの指導を行わねばならなかった。営業の心構えや、得意先の紹介、暫くは夕子と行動を共にすることなどを打ち合わせた。彼らは素直に聞いていた。顔は意欲に満ちているように思われた。結城は以前の面接時と同じ針鼠の髪型をしている。しかし、それほどの不快感はなく、夕子は気にせず、注意もしなかった。 「石田課長と交代で同行営業するから、まず、結城君はわたしと、向井君は石田課長とまず一週間、一週間後は交代します。」と夕子はふたりに告げた。 お昼前に夕子と結城は外出した。行く場所は先日訪問した某飲料会社だ。 「先に食事をしていきましょう。」と夕子は結城をいつも彼女が行くレストランに誘った。まだ、昼食のサラリーマンはそれほど来ていず、席は空いていた。「ランチでいいわね。」と夕子はそれしか注文しないという口調で言った。勿論、新人に文句はなかった。結城は躊躇わず、「それでいいです。」と応えた。彼女は水を運んできたウエイトレスにランチを注文する。「これが、早くて一番おいしいの。」と彼女は言葉を継いだ。そのあと話をかえて、「まあ、最初のうちは焦らなくてもいいから、リラックスしてやって。今日は緊張している?」「はい、だいぶ・・」と言いながら、それでも結城は笑みを見せている。「そうでしょうね。まあ慣れるまで一ヶ月はかかるでしょうね。」と夕子は彼の緊張を解こうとしている。 「でも、仕事の内容は同じだからそのほうは慣れているでしょう。あとは社内の人間関係ね。知らない人と仕事するのは気を使うと思うわ。特にデザイナーは変っている人が多いから。でも、気心が知れてくると協力するわよ。夜遅くなるまで、仕事してくれるから。 まあ、それに見合う仕事を取ってこないとだめね。」 「自信はあります。今までの経験を生かせばもっといい仕事が取れると思います。」と言って結城は目を輝かせている。夕子が気に入ったのもその目だった。切れ長の決して大きくはないが、澄んで輝いていた。仕事が好きなのが見て取れた。積極的な姿勢は十分過ぎたが、しかしどこかふと物思う様子が見られた。夕子はそこも気に入った。 「自分で廻るのだったら、明日からでもいいのよ。私には遠慮しないでどんどんやってちょうだい。報告だけは聞くから。」 「はい。挨拶もしなければいけないので自分で廻ってみます。」
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