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梅雨の季節は続いていた。傘を手放せない時もあった。晴れ間も時々あったが、長く続かなく、重い雨雲が空を覆い、絶え間なく雨が降った。その年は特に雨量が多く、土砂崩れや浸水のニュースを聞いた。通勤時の電車も遅れがちで、社員も出社が遅くなることもあった。ビルのホールや廊下が傘の雨水で濡れ、清掃員が時々モップをかける姿が見られた。夕子はレインコートを着、シューズカバーを着けて、外出した。彼女には雨はそれ程気にならなかった。しかし6月も過ぎ、7月に入ると気温も上がってきて、湿度の高い日など、さすがにレインコートは着られなかった。上着すら手に持って歩くことが多かった。 7月の初旬、期待した賞与も無事出ると、みどりは夕子を誘って一泊旅行に出かけた。夕子は初め躊躇していたが、みどりの執拗さに負けた。一泊だけと約束させて出かけた。房総の海岸のリゾートホテルに宿泊し、泳いだり、温泉に入ったりして一日を過ごした。まだ梅雨のあけない海は冷たく、長い間水の中にいることはできなかった。それでもみどりは水泳が達者で、沖まで出た。雲間を漏れる薄日で、午後には海岸の長いすで寝そべっても寒くはなかった。夕子は水の中より、海岸で日光浴を好んだ。遠く、沖のみどりの頭が見えた。 仕事に戻ると、結城貢の入社が決まったと総務部長が報告に来た。8月1日の出社だそうだ。もう一人の向井慎一も採用しろとの社長命令で、二人の採用となった。向井は営業部第2局の所属になった。社長は無理しても将来のために積極的な採用を考えていた。まだ増員は考えているとのことだった。夕子は女性も欲しいと部長に進言した。 「少し顔が焼けているね。海にでも行ったの。」と部長が訊いた。 「ええ。みどりと房総に。曇り気味だったけれど。」 「へー、房総のどこ?」 「一宮。」 「ああ、うちの近くだな。うちの田舎は茂原だから。」 「あらそうでしたの。好い所ですね。 「いや、それ程でも。しかしもう少し天気がいいと良かったが。今年は雨が多いから。」
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