「中途採用者の件だが、専務もいらっしゃるので、決めようと思うのだが。」と部長が最初に口を切った。「昨日朝霧さんと面接をして、報告書は私がつくって、専務に目を通してもらっています。来社した二人ともそれほど評価に甲乙付けがたいので、二人採用したいが、専務は一人にしておけ、ということで、どちらにするかは一任されていますが、二人の意見を聞きたいと思います。朝霧さんは立ち会っていますので、まず意見を聞きたい。」 「そうですね。私も甲乙付けがたいですけど。人柄や熱意の点では。しかし経験となると二人目の結城さんですか、あのこの方が即戦力という気はしますが。来てもらえるなら結城さんの方に来てもらいたいと思います。ただ、これもやってみないとわからないので責任は取れませんが。」 「責任なんか取らなくていいよ。感想を言ってくれれば。私は結城の髪型が気になったが。」と部長は身だしなみに注文をつけた。 「ああ、アレだろ、針鼠みたいな。」と常務は履歴書に貼ってあった写真を覚えていたのだろう、笑みを浮かべて言った。 「あの髪型はうちの営業部にもいるじゃない。市川なんか。」と一向平気な様子である。「髪型はどうでもいい。仕事をやってくれれば。」 「そうですけど、印象はいいとはいえませんね。市川なんかどうなの。」と部長は二人に聞いた。 「市川は今、髪型変えました。一頃、流行の髪型でしたが仕事はそれほど影響なかったです。」と石田課長が言った。 「そうかね。そんなもんかね。」部長はまだ納得がいかないといった口調で言った。 「結城の方が利益出しているみたいだな。」と専務は報告書を見て言った。 「私は向井の方がいいと思うが、営業部で採用するのだから営業部の希望を尊重します。」 「石田はどうかね。」と専務が訊いた。 「僕は朝霧の意見に同意します。」と石田課長は明言した。 「朝霧は結城を推すんだな。」 「はい。」
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