20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:当世女性気質 作者:石田実

第11回   11
「はい、かなり降っています。今日は一日中止みそうもありません。」と夕子は髪に手をやりながら言った。まだ髪は湿っていた。靴の方はカバー付のローヒールなので雨が中に入ることはなかった。みどりの方を見ると彼女も髪が濡れていた。むかえの席の小野田君と隣の席の市川君は何事もなかったようにパソコンのキーを打っている。溜まったメールの返事をしているのだろう。
「ところで、昨日の面接はどうだった?」と早速石田課長は夕子に聞いてきた。
「二人ともよかったです。人柄もいいし、意欲もあって。経験は後から来た結城の方がありますが。」と夕子は小声で応えた。みどりが聞いているのがわかったからだ。
「10時からその件で打ち合わせをしたいのだが。部長もいれて。」
「はい、かまいません。」と夕子は承諾し、豊製薬の社内広告の受注の報告をした。
「それで、関本部長は相変わらず元気かい?」
「ええ、元気ですわ。気遣ってくれて、栄養剤をくれました。冷蔵庫に入っていますので課長も飲んでください。
「へー。なかなか気を遣ってくれるのだな。夕子だからな。僕じゃくれないな。いいお客さんだな。大切にしなきゃ。」
「で、ちょっと変な話も聞きましたけど。」
「変な話って?」と課長は興味ありそうな様子で夕子の顔を見た。
「後で話します。」
「んん。」
次第に電話が鳴る。あちこちでそれを受ける声が聞こえる。夕子も商談の電話を取った。お馴染みの「カシコ」という製菓卸の総務部からだった。工場従業員と営業社員の募集広告の相談である。夕子は午後の訪問の約束を取り付けた。それから更に2社の依頼が入り、夕子のスケジュールは夕方まで予約で埋まった。
「もういいかね。」総務部長が二人を呼びに来た。「応接室Bが空いているから。」と言って部長は再び戻った。後から石田と朝霧が行くと、内田専務と総務部長が話をしている。ふたりとも入場者に顔を向け、着席を促した。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 7875