「いいえ、いません。欲しいとも思いません。今のとこは。仕事が楽しいので、仕事が遊びみたいなものですわね。殆どの時間を仕事に割いています。私、それでもストレスは感じない方なのです。自分でもおかしいと思うほどですわ。」と夕子は笑顔で応えた。 「失礼だけど、休日はどうしているの?」と関本部長は呆れたという顔で訊いた。 「休みの日は寝ています。私、眠るのが趣味で昼まで起きないのです。電話も殆ど出ないので留守電やメールが溜まっています。昼から起きだして、返事をしたりするのですけれど、頭がボーとしていて、つい夕方になったりして、それでその日は終わりです。また翌日は仕事です。」 「朝霧さんは本当に多忙なのだな。土曜日も出勤するの。」 「殆ど出ていますわ。何かと用が出来て。休むように言われていますが。」 「呆れたね。そんなに仕事して疲れないの。健康のためにも、休養が必要だよ。あ、そうそう、うちの健康ドリンクあげるから飲んでいきな。」と言って関本部長は奥に消えた。暫くすると、紙袋に入れた豊製薬の商品をいくつか持ってきた。ドリンクの栄養剤と錠剤だ。彼は夕子に中身を説明しながら、ドリンクを取り出し、飲むように薦めた。彼女は礼を言って、栓を開け、一口飲んだ。さわやかな炭酸と甘味で、栄養剤とは思われなかった。「口当たりがいいですわね。これなら宣伝しなくても売れるわけですね。」彼女は一気に残りを飲み干した。「元気が出てきそうなので、帰ってもう一仕事しますわ。」と彼女は世辞を言って、豊製薬を後にした。
3
翌日は梅雨にはいったらしく、雨だった。 夕子はレインコートや靴、それに髪までも濡らして会社に着いた。タオルで髪を拭き、席に向った。石田課長が早速声をかけてきた。 「やあ、おはよう。大分濡れたみたいだね。まだ雨はひどいの。」
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