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作品名:恵比須丸遭難 作者:wayahead

第3回   爆破工作
ところで新聞紙上に於いて大略を報道せられた遭難について補足的に語りたいと思います。
貴兄も鴨線江上の引揚船内であの事件を目撃し知った事と思いますが、十月二十四日夜半より行われた中共軍の撤退に伴う安東市中枢機関の爆破工作は市政府、省政府、公安局、発電所、水道その他各種工場等、重要建造物等に重要施設を爆破し、翌朝未明頃までには市内に於いて中共軍の兵士を一兵も見ることは出来ませんでした。勿論この場合民主連盟員も彼等中共軍と行動を共にし、海路大連方面、陸路北鮮方面へ撤退したのであります。貴兄も知っておられる邦人引揚のため船賃として民主連盟へ前納した約壱千万円の行方については遂に不明であります。
 撤退に際して民主連盟員のとった一連の行動は、二十五日の邦人の引揚行動を困難ならしめ、且、民主連盟員に対する引揚邦人の憤激を空前のものにならしめた事は事実であります。この民主連盟員のとった行動等に之に対する引揚邦人の怨念の是非については、只単に隔絶された満州の一隅にあって祖国帰還のみを念願とし、その念願の実現を一時的にもせよ阻害され、困難にせられた邦人の気持ちからのみ説明し、批判すべきでありましょうか?勿論私ばかりではなく貴兄も亦祖国への帰還ということが敗戦後海外に取り残された邦人の感情の集中的な表現であったという事は否定しないでしょう。然し乍ら私は引揚という事の中共軍の対邦人政策中に占めるべき地位、もっと大きく中共軍の全般的な政策に関連させて之を取り扱い説明すべきではなかろうかと思います。このことについては亦別の機会に語りたいと思います。故只今は省略します。


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