『九時半の男』
学生時代、バイトを終えて
行きつけのトンカツ屋で
ちょっと遅い夕食をとる
僕は身長184cmの大男だけれど
頼むのはいつもレディースセット
それが一番安いメニューだから
ご飯もキャベツもお代わりだ
お代わりしてもタダだったから
わけあって、一年半も間を空けて
そのトンカツ屋をたずねてみたら
「久しぶりだなぁ、九時半の男」
なんて威勢のいいオヤジさんの声
どうも毎回、野球中継の終わる頃に
僕はお店に来ていたらしかった
しかし、一年半も間が空いたのに
覚えていてくれていたのが嬉しかった
それからさらに十年あまり経ち
僕が住んでいるのは横浜ではなく青森
通うのはトンカツ屋ではなく中華料理店
頼むのはレディースセットでもなく
辛めにしてもらった麻婆飯の大盛
変わらないのは閉店間際の入店時間
昔も今も変わらず僕は「九時半の男」
2016年7月21日作 2016年8月3日加筆修正 2016年8月14日ラジオNIKKEI『私の書いたのポエム』放送分
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