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作品名:ねぶの詩集3 作者:ねぶ

第64回   『暗順応』/『みたいに』
『暗順応』

小雪の舞う12月の渋谷駅前

すれ違う恋人達は幸せそうに腕を組みながら

クリスマスの過ごし方を語り合っているのかな?

スクランブル交差点を器用に縫って歩けるようになった

でも、僕の人生は粗だらけで上手く縫えそうにはないよ



僕を待つのは冷たく暗い六畳間の独房

乗車率200%の田園都市線から開放されても

僕の心には冷たい空っ風が通り抜けていく

そして僕の手足には重りがついているみたい

駅から家路までの300mが3000mに感じられた



ポケットからカギを取り出し、暗い六畳間へと入る

誰もいるわけがないのに、誰かいるような気がする

自分の居場所のはずなのに、ちっとも落ち着かない

蛍光灯のヒモをまさぐったけれども、僕の手は空を切る

もういいや……冷たく湿ったせんべい布団に転がった



夢や希望、理想をスポーツバッグに詰め込んで

田舎から東京へとやってきたはずだったのに

僕はそれらをどこかに落としてしまったらしい

星の数ほど人がいるから、僕は孤独になる

僕はいったい何のためにここにいるのだろう?



せんべい布団の中で目を閉じる

二度と目を開けられなくてもいいかな

そんな風に思うことなんてしょっちゅうだ

暗闇に慣れた僕は蛍光灯のヒモヘ手を伸ばす

今度はヒモをつかみ、暗い部屋に灯りをともした



太陽や満月には手が届かなくても

蛍光灯のヒモには何とか手が届くんだ

か細い灯りの下で、僕は鈍磨した心の中をまさぐる

夢や希望、理想のカケラが残っていないだろうか

心の中は部屋よりも暗くて、よく見えなかった



暗い心の中でも見つづけていれば目が慣れてきて

無くしたと思っていたものをきっと見つけられる

根拠などないけれど、そう思わずにはいられなかった

明日はもっとよく見えると祈りながら、静かに目を閉じた



*********************************

『みたいに』

あの人みたいに書けたらいいな

なんて思うことがよくあるんです

でも、実際に書き出してみると

それはやっぱりあたしの言葉で

あの人みたいじゃ全然なくて

ちょっぴり寂しかったりします



そんなあたしの言葉も知らない誰かに

あの人みたいに書いてみたい

そんな風に思ってもらえているのかな

もしそうだとすれば最高にうれしいです



あたしはあたし

あの人はあの人

誰かは誰か

みんながみんなの言葉を持ってる

みんながみんなの言葉を待ってる


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