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作品名:ねぶの詩集3 作者:ねぶ

第62回   『バスストップ』
『バスストップ』

真冬の停留所でバスを待つ僕の手は

雪のように真っ白で、かじかんでいた

冷たい手と手をこすり合わせても

その手はやっぱり冷たくて

つかむべきものをつかめるか心配になる



どれだけの間、バスを待っただろうか

ここは停留所だというのに時刻表が貼っていない

本当にここが停留所なのかも疑わしく思えてきた

それでも方々へ向かうバスはやってきて

僕の周りの人々は次々と乗り込んでいく



人々に混ざって僕もバスに乗り込もうともしたけれど

バスはもう満員だと運転手はにべもなく言い放つ

「補助席や立ち乗りでもいいからお願いします」

僕は運転手に向かって叫んでみたけれど

ドアは閉まり、僕を残してバスは走り出していく



僕の乗るバスはもう出発してしまったのだろうか

それともここで待っていればやがて来るのだろうか

けれども、この寒さのなかでいつまでも待ってはいられない

じっとしていると徐々に心身の熱が失われていく



ホッカイロがほしい

ホットコーヒーが飲みたい

肉まんを食べたい

今はただそれさえもかなわない



僕の乗るべきバスはわからないけれど

次の停留所だけはわかっていた

ほとんどのバスはそこを経由する

僕は心身を引きずるように歩き始めた





















次の停留所まで歩いていけないかもしれない

停留所についてもバスはやってこないかもしれない

乗るべきバスが僕を追い越していくかもしれない

しれない、知れない、先のことなどわかるわけがない



それでも歩き出さなければ何も始まらない

乗りたかった楽園行きのバスに乗れなくとも

暗中模索、五里霧中、無我夢中の果てに

たどり着いた場所も悪くはないと感じられる

そんな漠然とした予感だけが今を突き動かしている



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