『満月をつかみ損ねた男』
猛吹雪の夜の下
僕は一人歩いていた
吹雪が酷くてうつむいていた
しばらく歩いていたら雪がやんだ
見上げてみればキレイな満月
あんまりキレイなもんだから手を振ってみた
そうしたら満月は微笑んでくれた
そんな気がした
日に日に満月との距離は縮んでいた
そう思った僕は満月へと手を伸ばした
届きそうだったのにかすめただけで
満月は雲の陰へと消えていった
あたりは宵闇に包まれていった
翌日もその翌日も僕は夜空を見上げた
雲の切れ間から星は見えるのに
あのキレイな満月はもう見えなかった
それでも、満月なき夜空に僕は手を掲げる
満月が見えればいい
でも、見えなくたっていいさ
掲げた僕の手はきっと何かをつかめる
この手を下ろさない限りは
ホラ、今だって何かが僕の手の甲をかすめた
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