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作品名:ねぶの詩集3 作者:ねぶ

第106回   『C'EST MON ESPOIR』
『C'EST MON ESPOIR』

桟橋を眺めると乗船待ちの人の列

その列の脇にはダフ屋の姿も見える

列に並んでも乗船できるかわからないのに

乗船待ちの人数は累乗を重ねて増えていく

老いも若きも男も女も、人種も関係なく



待つだけムダなんじゃないかと言ったら

並んでいたおじさんは僕に言ったんだ

自分で船を操舵することはできないし

たとえできても責任を負いたくもない

そして並んでいるだけでホっとするから、と



その船の名前はエスポワール(ESPOIR)号

日給は船外の1.1倍の賃金がもらえた

そして、十日で船外の3倍近い賃金

だから、我も我もと船に乗りたがったが

それは遠い昔の話で今はそうではない



昨今は沈没事故が相次いでいるのに

乗員全員の救命用具はないという

底辺が崩れて、頂点の維持はない

お偉いさんにはそんなこともわからんらしい

これは急死に一生を得た生存者の話



生存者は続けて僕に話してくれた

日給が1.1倍、十日で3倍なんてウソで

実際には日給は0.9倍、十日で0.7倍

挙げ句の果てにはゴミのように海へポイ

そんな船長、副船長は未だに船長らしい



希望の船どころか絶望の船じゃないか

エスポワール号?看板に偽り大有りだ

タイタニック号か泥舟に名前を変更しろ

生存者の話を列のおじさんに話してみた

それでもおじさんは順番を待つという……



並ぶ人数は累乗を重ねて増えているが

大事な自分の命を泥舟船長に委ねられるか

僕は材料をかき集めていかだを作ってみた

これはエスポワール号どころか泥舟以下だろうが

自分のいかだで自分が死ぬなら本望と思えるさ



海に浮かべてみても、とりあえず大丈夫

羅針盤の針は光へ向かって確かな方向を指している

ただのいかだでも大事な相棒だから名前をつけよう

僕のつけた名前は「C'EST MON ESPOIR」(私の希望)

さあ、漕ぎ出そう!人生という名の大海原へ





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