あの日、僕は千鶴をパーティーに誘った。武に聞いたら軽いのりで「あの子ならいいんじゃね?」と、言ったから。「同じくらいの年の女の子も来るからさ」その言葉で、千鶴は行くと決めた。中学からの女友達は本当にいい子ばかりだった。最初は千鶴が目が見えないと驚いたが、その後はすぐに打ち解けていた。
「どぉだった?」 「すごく楽しかった!!貴子さんが今度一緒に買い物行こうって誘ってくれて…服、選んでくれるって」 「へぇーあいつイイヤツだから、きっと友達になれるよ」 「うん、本当に辰巳の友達は優しい人ばっかり」 「いつ行くの?」 「え?」 「買い物」 「あ〜今度の土曜かな」 「俺も行っていい??」 「え?どぉして?」 「荷物持ち、いるっしょ」 「う〜ん、ごめんなさい。だめ」 「え〜何で?」 「とにかく、だめ!」 「はぁ〜わかったよ」 「どうしてそんなに来たいんですか?」 「ん?なんか心配だから」 「…別に大丈夫です!!」
急に千鶴は早足になった。
「ちょっ危ないからちゃんと隣にいなって」 「私は今までずっとひとりで歩けてたのよ」 「知ってるよ、そんなの。初めて会った日もひとりだったもんな」 「辰巳は友達だけど、辰巳がいないとダメな人にはなりたくないの」 「どういう意味?」 「私たち友達なんだよね?」 「ああ」 「嘘。辰巳は私のこと子どもか妹みたいに思ってるんでしょ?」 「で、怒ってるんだ」 「今日はひとりで帰ります」
そういうと千鶴はどんどん先へ進んで行った。もちろん僕は千鶴から少し離れてついていく。曲がり角にさしかかろうとした時、千鶴が後ろを振り返った。
「いいかげんにして!ひとりで帰れるから!!」
また足音か…僕は溜息を吐いた。なんだってこんなことになるんだ。今日は千鶴は本当に楽しそうで、最近は敬語がなくなってきたかわりに喧嘩って。 ピルルルル
「くそっ誰だよっ」
僕はいらつきながら通話ボタンを押した。
「もしもし?!」 「おー辰巳?俺」 「聡春か、何?」 「今日はありがとな、今まだ千鶴ちゃんと一緒?」 「いや、今ちょーど別れた」 「なんかさ、また今度あのメンツでどっか行こうってなってんだけど」 「あーいつ?」 「クリスマス」 「うわっ絶対やだ」 「なんだよ、ふたりで過ごしたいわけ?」 「誰とだよ」 「まぁ、別にいいけど」 「その前に話先すぎ…一ヶ月以上も先だろ」 「とにかく聞いといて」 「それよりさぁ」 「何だよ?」 「千鶴が貴子と一緒に服買いに行くんだって」 「あーそう」 「でさ、相談すけど…俺らも行かん?」
一瞬、沈黙が流れた。
「は??どういう意味???!!!」 「だからさ〜、俺は心配なわけ!!千鶴が!!!あいつ友達と服買いに行くなんて今までなかっただろうし、土曜とか込むに決まってるし、変なヤツにからまれるかもしれねーだろ!?」 「で、なんで俺と行かなきゃならねぇの?」 「千鶴について来ないでって言われたんだからしゃあねぇだろ?」 「まさか…お前つける気かよ…」 「人聞き悪いこと言うな!」 「じゃあどうすんだよ」 「貴子にどこ行くか聞いて、その辺ぶらついとく。で、何かあったら電話するように言っとけばすぐに行けるっしょ?」 「お前さぁ…心配しすぎじゃね?ちょっとおかしいから」 「んなこと言ったって仕方ねぇじゃん。心配なんだからさ〜」 「確かお前、真理子ちゃんと付き合ってた時、束縛がうぜぇとか言ってたよなぁ〜」 「だから?」 「やってること変わらねぇよ?」 「違うだろ!!まったく!!真理子は彼女として俺の浮気を心配してたわけで、俺は友達として千鶴が変なのにからまれないか純粋に心配してんだろ!!」 「いや〜お前のがおかしいか〜」 「はぁ〜?!」 「お前はただの友達だろ?千鶴ちゃんが絡まれる心配までする必要あるか?だいたい子どもじゃないし、貴子だっているんだからうまく対処するだろ」
確かにその通りだ。だいたい彼女だったとしても、友達とふたりで遊びに行くと言われて止めるのもおかしい。僕はその時、なぜ自分がこんなバカな発言をしていたのかわからなかった。ただ、千鶴が心配で、他には何も見えてなかった。
「そうだよな、俺、何でこんな必死になってんだろ」 「お前…最高なバカだな」 「はぁ?!」 「まったまにはいいよ。一度はそういう苦しみを味わった方がいいよ」 「どういう意味だよ?」 「あっわりぃ、これから用事あるから、またな」
ブツリと電話が切られた。僕は本当は聡春の言った言葉の意味を理解していた。聡春はこう言いたかったんだ。「お前は千鶴ちゃんに惚れてるんだ、だからおかしいんだよ」と。そうなのかもしれない。でもそうあるべきじゃない。僕は友達としているべきなんだ。僕自身前から気づいていた。千鶴が特別な存在だと。自分が千鶴を恋愛の対象として見てしまえば、もしかしたら聡春のいうように、真理子が僕に望んだように、つねに僕の傍にいてくれることを望んでしまうかもしれない。千鶴はこれから広がる世界を楽しみにしているのに。だからまた、僕は押さえつけるしかなかった。僕の本当の感情を、自己のための愛なんかじゃなく、彼女を見守る友情に。
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