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作品名:彼女と僕 作者:無花果

第7回   特別な存在
その日から、僕らは水曜の午後以外も会うようになった。
バイトのシフトを減らし、僕の生活はいつしか彼女を軸に動いていた。

「で、千鶴のタイプはどんなの?」
「タイプ!!??」
「そうだよ、千鶴の好みがわかんないことには相手探しようがないしなぁ」
「急に…言われても」
「好きな奴とかいないの?」
「…いないよ」
「ふーん、あっじゃあ、前に好きだった人とかは?」
「前…」

千鶴は思い出すような仕草をした。

「いたの?彼氏?」
「えっはっ?いるわけないじゃないですか!!もう!」
「そう?千鶴は絶対モテるって!自信持ちな!!」
「自信なんて…簡単に持てるものじゃないです」
「俺なんていつも自信あるけどなぁ〜」
「そりゃ、大野さんは持っていたっていいんです」
「…つーかさ、千鶴!!俺ら友達になったんだよな?」
「?え、はい」
「なのにいつまで大野さんなんて他人行儀でいくわけ?」
「あっ」
「俺の下の名前覚えてる?」

…。困った顔で黙り込む彼女。

「えっ!!マジで?!わかんないの???」

「あははっ」

千鶴は声を立てて笑った。なんの警戒心もなく彼女が笑ったのはこの日が初めてだった。

「ごめんなさい。覚えてますよ。辰巳さん」
「よかったー!!辰巳でいいよ」
「えっでも…年上」
「関係ないない。部活の先輩後輩じゃあるまいし」
「じゃあ…」


「たつみ」

彼女は少し俯いて僕の名を呼んだ。この場所に戻って来れたことが、本当に千鶴の友達になれたことが、この時の彼女の言葉で実感できた。



夏休みがあけて、1ヶ月がすぎた。千鶴と週に3日は会うようになると、毎日が凄く早く感じられた。千鶴に会える日の授業は一瞬で過ぎて、気づけばいつも放課後だった。夏休み最後の日、千鶴と別れてからすぐに真理子に会いに行った。真理子は別れを予感していたのか、僕を責めなかった。それが余計に苦しかった。罵倒してくれてよかった。嫌いになってくれればいいのに、とさえ思った。僕は真理子と恋人でいるより、千鶴と友達でいることを選んだ。真理子は僕に聞いた。「あの子が好きなの?」と。僕は「そうじゃない」と、言った。

「好きって言ってくれれば、あきらめきれるのに」

彼女が別れ際に言った言葉を僕は忘れられなかった。

僕は…千鶴のことを好きなんだろうか。でも…そんなはずない。僕が千鶴に対して持っていた感情は今まで付き合った子達に対して持っていたモノとはまったく違う感じだった。彼女を好きだと言うことに気づかなかったのは、気づけなかったのではなくて、気づきたくなかったからなのかもしれない。あの頃の僕は本当に好きな人と恋愛をしていなかったんだろう。「好き」とか「恋」に大した意味を感じられなかった。だから、千鶴をその枠の中に入れたくはなかった。ただ、僕はもう気づいていた。彼女は「特別」だと。恋愛感情がなくても、ただ彼女は僕を変える存在で、僕が今、一番大切にしたい人。それでいいと思っていた。






ピロロロロ…

「ピッチ鳴ってますよ?」
「ああ、ちょっと、ゴメン」

「はい」
「よぉ、今日もあの子と会ってんの?」
「…武かぁ。わかってんなら電話すんなよ」
「いやさ、考えたんだけど、もうすぐ聡春の誕生日だからなんかサプライズしねぇ?」
「あーそういや来週だなぁ〜。いーよ。何する?」
「まだ考え中なんだよ。お前も考えてくんね?」
「誰呼ぶん?」
「まぁそれも考えたんだけどよ、先輩とか集めたら絶対女も来るっしょ?」
「あ〜聡春嫌がんもんなぁ」
「あいつ何でか迫られるジャン。年上のお姉様に」
「ははは!!確かに、そうだな〜」
「で、考えたんだけど、今回は中学の同期のヤツだけにしね?」
「それがベストだろぉなぁ〜」
「じゃ適当に声かけとくわ」
「おお、また帰ったらかけなおすわ」
「はいよー」

僕はピッチを切ると千鶴を見た。彼女は電話の内容なんか聞いてなかったように歌を口ずさんでいた。彼女は他の女のように誰から?とか何て?とかは聞かなかった。

「ごめんね」
「いいえ、そろそろ帰りますか?」
「そうだね、最近日落ちるの早いし、送るね」
「えっいいですよ!!私、徒歩だし」

彼女はそう言っていつもひとりで帰っていた。でも、僕は彼女の「いいんですか?」の一言が欲しかった。だから、どうしても今日は送るつもりだった。

「いや!!送りたいんだって。だから今日は俺も歩きで来た!!」
「ええ??」
「どうする?」

千鶴は困ったような素振りをしたが、口は笑っていた。

「本当にいいんですか?」
「当たり前だろ」
「じゃあ…お願いします」



千鶴と僕の距離はゆっくりとただ確実に縮まっていった。



付き合うようになってから、千鶴は言っていた。

「私はたつみのこと、あの時もう好きになってた」と

ただ、あまりにも当然のように友達として振る舞う僕に、そのことを言うことは絶対にできないと思っていたとも。

「もう二度と失いたくなかったから」


僕も彼女を失いたくなかった。。




でも





僕は、彼女を失った。



僕はもう彼女に触れることすらできない。


ただ、想い出と娘だけが、僕の悲しみを埋めてくれる。


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