「どういうこと?!」
突然の真理子からの呼び出し。僕は待ち合わせの公園に着くなり、責められることになる。
「何が?」 「何が?とぼけてもムダだからね!!辰巳、毎週水曜だけはバイトじゃなくて別の所に行ってるでしょ!!!」
僕は、一瞬やばいと思った。やましいことなんて何もない。ただ話を1・2時間しているだけなのに、次の瞬間には言い訳をしていた。
「何言ってんだよ」 「病院。そこで同いくらいの女の子としゃべってるんでしょ。毎週毎週」 「…だから違うって。友達だよ、だいたい誰がそんなこと」 「誰だっていいでしょ!そんなことよりその女誰なわけ?!」
真理子を大切にしてるつもりだった。自分は浮気してるわけじゃない。千鶴は彼女とか恋愛の対象じゃないんだ。でも、あの子には友達が必要なんだ。なんでわかんないんだ?真理子は何一つ悪くないのに、僕は気づけば真理子に当たっていた。
「友達だって言ってるだろ?!しつこいよ、お前!」 「友達って女友達?目の見えない?」
「…お前、最低だな」
真理子は目を見開いて僕を見た。
「私も最低だけど、辰巳はもっと最低だよ」
そう言うと、真理子は僕の頬を思いっきりひっぱたいた。僕には真理子の行動が読めたけど、あえて避けはしなかった。そして目に涙を溜めて、走って去っていく彼女を僕は止めようともしなかった。
真理子の言うとおり、その時の僕は最低だった。いくらあの時、千鶴のことを好きだと気づいてなかったにしろ、会っていることがばれれば真理子が怒ることは承知の上だった。そして、僕もまた真理子と同じように千鶴と自分は違う世界の人間のように見ていた。だから、自分の思いに気づかなかった。そのくせ、千鶴を中傷するような言い方をした真理子を軽蔑した。自分だって同類だったのに。
それから僕は家に帰って、自分のしたことを考えた。真理子の言ったことには腹が立ったけど、それでも彼女が嫉妬からそう言ったのはわかる。それに彼女に内緒で他の女の子と会うのは確かにダメかもしれない…と。そして、僕は真理子に電話をかけた。
「ごめん、彼女とは本当に何もないけど、真理子が嫌ならもう会わないから」と。
たぶん、切れられると思っていたが、予想に反して、真理子は冷静だった。
「わかった、信じる」
真理子はたった一言そう言った。 僕はほっとした感情の中に後悔の思いがあることに気づいた。もし、真理子と別れれば、何の気兼ねもなく千鶴に会いに行けたのではないか。だけど、そこまでする理由がどこにあるのだろう。真理子は彼女、では千鶴は?彼女は僕にとって必要な存在なのだろうか。それでも今さら自分の言ったことを訂正するわけにも行かず、そのまま電話を切った。
それから、僕は千鶴に会いに行かなくなった。彼女に何ひとつ告げることなく。 彼女に会うことを楽しみに過ごす一週間と彼女はどうしてるのだと考えて過ごす毎日は天と地ほどの差がった。罪悪感と後悔と彼女に会えないつまらなさで僕は彼女に会う前のいいかげんな自分に戻りつつあった。真理子とも仲直りはしたものの、正直デートする気分にもなれず、向こうから 連絡がない限り放っておいた。気づけば、もぉすぐ夏休みも終わろうとしていた。
夏休み最後の日、武から電話が来た。何もする気が起きていなかった僕はバイトも行かず、武や聡春からの遊びの誘いすら断っていた。
「よぉ、何してんの?つーか生きてる?」 「…うっせーな、悪いけど今ほんと何もする気起きねーからほっといてくんない?」 「まあ、そりゃ別にいーけど…お前、目見えない女の子と病院で毎週話してたんだって?」 「はぁ?何でお前が知ってんだよ!」
心臓がどくんと高鳴った。からかわれるのも嫌だったし、正直に言うと知られればバカにされるような気がしてた。
「いや、何でって…昨日さ、聡春といつものトンネルで先輩待ってたら、女の子にしゃべりかけられて。なんか聡春が言うには前もそこであったことあるらしいんだけど。その子がお前と毎週病院で会って話をしてたって言ってたから…で、マジなの?」 「ああ、悪りーかよ」 「いや、別に悪くはないけどよぉ。でも行かなくなったんだろ?その子にさ、たぶんもぉ会えないと思うから楽しかったって伝えてくれって頼まれたんだよ」 「え?他になんか言ってたか?!」 「いや〜別に。何で来なくなったか知ってんの?って聞いたら、うんって言ってたけど理由は教えてくれなかったし。」 「千鶴がそう言ったのか?知ってるって!」 「そうだけど?」
僕は真理子の顔が頭に浮かんだ。そしてカレンダーを見た。その年の8月31日はちょうど水曜日だった。
「悪い!かけ直す!!」
携帯と原チャの鍵だけ持って家を出た。行き先は決まっていた。
それは、僕がこの数週間ずっと行きたくて、会いたくてどぉしようもなかった場所。 彼女に会える唯一の場所。
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