一通り坂窓先生との会話が終了すると、校長と先生の雑談になった。僕はチャンスとばかりに言った。
「じゃあ、俺帰ります」 「はぁ?」
校長と坂窓先生は顔を見合わした。
「何言ってるんだ」 「なんか今日はもぉ〜めちゃくちゃ勉強したし!じゃ!!」
僕は引き留められないうちに鞄を取り、足早に校長室を後にした。校長はあっけに取られて動くことができなかったようだ。 急いで靴箱まで行った。僕の靴箱は一番下の段だったので屈んで取ろうとしたその時だった。
「だーれだっっ」 「うわっ」
突然背中から抱きつかれ頭から転びそうになったが、靴箱に手を伸ばし、何とか支えた。
「何?誰?」
抱きつかれたまま振り向くと間近にあった顔を見て、僕はやばいと思った。
「誰〜?こんなことする子が私の他にもいるわけ〜」
そこにいたのは真理子だった。真理子は僕の当時の彼女で、1年の時同じクラスで仲良くなった子だった。2年にあがって真理子から告白されて付き合い始めたから付き合ってまだ2ヶ月くらいだった。
「真理子…びびらせんなよ。何してんの?」 「質問の答えになってないんですけどー」 「何?聞きたいわけ?」
真理子はおもいっきり僕の頬をつねった。
「いって!何すんだよ」 「どーいうつもり?!1週間も連絡なしなんてありえない!!」 「あっ」
真理子は見た目はギャルっぽいが当時の流行のガン黒などではなく、それなりに可愛い子だった。ただ物凄いヤキモチ焼きで、その時の僕はうんざりしていたのを覚えている。
「ごめん、武達と遊んでてさ、家帰ってなかったから」 「ピッチも繋がらなかった!!」 「マジで?あ〜先輩ち電波なかったかも」 「ホントに武くん達だけでしょーね?!女もいたんじゃないの?!!」 「いないいない」 「マジで?嘘だったら許さないよ」 「わかった!今度からはちゃんと連絡するから!」 「…じゃあ〜今日はどっか連れてってね」 「はい?」 「埋め合わせに決まってんでしょ〜」 「わかった…けど俺もう学校出るよ?お前どうすんの?どっかで待ち合わせる?」 「私も行く!!」 「鞄は?」 「これだけあれば十分でしょ」
真理子はカーディガンのポケットからピッチと財布を出すと自分の顔の横で持って見せると、にこりと笑った。
「よし、じゃ行くか?」 「やたっっ!まずはお昼ごはんからね〜」 「えっ食べてないの?」 「購買でパン買おうと思ったら、辰巳が見えたから何も買わずに来たの」 「あ〜そう、俺も食べてないからいいけどね」 「もちろん、辰巳のおごりね〜」 「ハイ、言うと思った!」
僕は真理子と付き合う前は何人かの彼女がいた。可愛い子に好きと言われれば自分も好きだと思ったし、何より先輩や仲間と一緒にいると何かと女の子と知り合う機会が多かったせいか、とにかく不自由はしてなかった。高校に上がってから1年はとにかく色んな子と遊んでいた。そういう自分に飽き飽きして、真理子だけと真面目に付き合うつもりだった。意外にもそれがかなりきつく、学校にほとんど行かなくなったのも実を言うと彼女と会うのが面倒だったというのもある。だけど、真理子が1年の頃から自分を思っていたことを知っていたから彼女に別れを告げることなんてできずにいた。結局そういう僕の態度がこの先、千鶴と真理子ふたりを傷つけてしまうのに、その時の僕は何も考えてなかった。
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