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作品名:彼女と僕 作者:無花果

第17回   コロッケ

「なんか、おかしくね?」

「何が?」

そう聞いたのは聡春だった。
聡春が僕のバイト先で働くようになったのはつい最近のことだ。

「千鶴だよ。夏休み入ってから全然バイト先来ないよな??」

「いや…俺に聞かれても」

「前は日曜とかおじさんとおばさんと昼飯食べに来てくれたのに」

「女子かお前は…」


あきれ顔でそう言う聡春を無視して話を続ける。




「毎日電話でバイトの日確認して来るのに、まだ一回も来ないし、俺なんかしたかな」

「それより俺は夏休み入ってから予備校とバイト三昧で死にそう」

「あー聡春大学受験するんだろ?バイトなんかしてていいのか?」

「第一志望はA判定もらってるし大丈夫だとは思うけど…一人暮らししないといけねぇからな」

「一人暮らしかぁ〜。俺は千鶴と同棲したいな〜」

「はあ?」

「つか結婚?っても今の俺だと養えねぇしな」

「お前、ほんと変わったよな。専門出たらすぐ働くんだろ?」

「おう。お前が大学で遊んでる間に俺は千鶴とあったかーい家庭を築くから」



「ああ…そお」

完全に聡春はあきれたようで、キッチンへと行ってしまった。僕は誰も来ないファミレスの入り口をただぼーっと眺めていた。






「たっくん!」

いきなり、背中を押されふらついた。


「いって」

「ぼーっとしないで働いてくれる?!」



そう言ったのは、ひとつ年上の大学生のお姉さん「いっしゃん」だった。
本名は石塚小代子で、いっしゃん。とりあえず、最初は石塚さんと呼んでいたが、バイト内では年上年下先輩後輩関係なく「いっしゃん」と呼ぶらしく、今ではきちんと「いっしゃん」と呼ばせてもらっている。そしてとばっちりなのか、僕は「たっくん」とみんなから呼ばれていた。



「なんだ、いっしゃんか…」

「なんだとは何よ」

「いっしゃん、いつもバイトいるよね。ヒマなの?」

「こらこら、失礼でしょ。てゆーか君もいるでしょーが」

「俺は、いいの。彼女とのデート資金貯めてるから」

「彼女?最近来てないじゃない」

「うわっ今一番デリケートなトコ突いてきたね」



「えっなになに!うまくいってないの?!」

いっしゃん…目が輝いてますけど?




「人の不幸は蜜の味ってやつか…」
ぼそりと呟いたその声はいっしゃんには届かなかったようだ。



「あたしでよければ、相談乗るよ。あっ今日上がり一緒だよね?ごはんでも行く?」


いっしゃん…まさか、気がある??
なんて考えが廻るほど僕はもう彼女以外の女の子に気を使えるような男ではなかった。



「やめとく。今日は帰りに彼女の家行くし。てかいくら年下でも男とごはんなんて行ったらいっしゃんの彼氏怒るんじゃね?俺の彼女も嫌がると思うし」


「バレなきゃいーじゃん」

「へ?てか、別に内緒にまでしてごはん行く気ないよ」

「たっくんさぁ、なんであの彼女ばっかなのー」
「もっと他見てみなよ。かわいいコいっぱいいるじゃん」

やべ…軽くイラっとするわ…。

「彼女しかかわいく見えなくなっちゃったんだよねー」

「え?」

「他のコに興味一切ない」

「なんか、女としてムカツクんですけど」

「いっしゃんも早くいっしゃんだけを見てくれる男見つけな」

「年下のくせに、どーせそんな続かないからっ」



なんちゅー捨てゼリフだ。


それよりも早く千鶴に会いたい。
久々に会えるのが楽しみでしょうがなかったのに…バイトが終わってピッチを見ると留守電が入っていた。


「辰巳、お疲れ様。えっと、千鶴です。今からお父さんとお母さんと出かけることになりました。約束してたのに、ごめんなさい。今日はまっすぐおうちに帰ってね。」

「はあ〜〜〜〜?!?!?!」


あまりのショックにロッカー室で叫び声を上げてしまった。
っていうか、今日はずっと前から会う約束してたのに、ドタキャンなんて千鶴らしくない。

イライラしながらロッカー室を出ると、いっしゃんに会った。


「さっきの叫び声たっくん??」

「あっすいません」

「いいけど、どうしたの?」

「カノジョにドタキャンされました」

「あはは!マジで?」

だから何であんたは嬉しそうなんだ!


「ねぇ!この近くにめちゃくちゃおいしいラーメン屋ができたんだけど、行かない?」

「ええ?」

「いいじゃん。ラーメンくらい」

「まぁ、たしかに」


結局、いっしゃんとふたりでラーメンを食いに行った。久々に千鶴以外の女の子とふたりで行ったごはんは、それなりに楽しかった。
評判のラーメン屋で、意外にも相談に乗ってくれたいっしゃんは女目線の意見を言ってくれたりして、なるほどと思いながら1時間ほどしゃべって帰ることにした。


「ええ!もう帰るの?!」

「俺明日も朝からバイトなんで〜」

「あっそ」

ピリリリリー
「あっ」

ピッチの画面には千鶴の名前が。(千鶴はお父さんにピッチを買ってもらった)

「もしもしっ」

「辰巳?まだバイト終わってないの?」

「いや、もうとっくに終わったけど?」

「家に帰った?」

「まだだけど?」


「ねぇねぇ、彼女から?」


でかい声で割り込もうとするいっしゃん

「ちょっと黙ってて」

「誰??」


「えっホラ、バイト一緒の石塚さん。帰り一緒になったからさっきまでラーメン食べに行ってて今から帰るとこなんだけど」

「ラーメン食べたの???!!!」

「へっ?うん。最近できたとこ。けっこう美味かったから今度行く?」

「もう、いい」

ブチッ

いきなり切られ、立ちすくすしかない僕を見て、いっしゃんがけらけら笑う。

「なに暴露してんのよー。怒られて当然だよ。」

「別にやましいことないのに…」

「ガンバレ!」

そのままいっしゃんは手を振って帰って行った。
なんだったんだ、一体。

「はあ…」

溜息を吐きながら家に帰るとお袋が仁王立ちしていた。

「遅い!!!!」

「いや、今日千鶴んち行くって言ったし」

「えっあら?そうだったかしら??」

「しかもまた8時だろー」

「あっごはん食べなさい!」

「ラーメン食って来た」

「いいから!!」

母親にムリヤリ台所まで引っ張っていかれた。
テーブルに並んだ料理にちょっと驚いた。珍しく、僕の好物ばかりだったからだ。


「なんかあったの今日?」

「ふふふ〜いいから食べなさい」

大好物の母親の作ったコロッケ。

大して料理の上手い母親ではないが、コロッケだけはかなり美味い。

「うまっ!てかいつもより美味い!!なんか変えた?」

「まあね。愛情をちょっとね」

「何言ってんの?」




「ふふふ。これ千鶴ちゃんが作ってくれたのよー」

「は?!」

「実は夏休みに入ってから、ほぼ毎日うちに来てごはんの作り方ならってたのよー
最初は戸惑ったけど包丁使うの上手でね!おうちでかなり練習してたみたいねー」

「えっ!!!」

「あんたほとんどバイト先のまかないで済まして帰るからせっかく作ってくれても食べれてなかったけど」

「千鶴は??」

「部屋にいるわよ。なんかもう帰るって言ってたんだけど、お父さんもいないし、あんたに送らそうと思って待ってもらってたの」

「ちょっまた後で」

「千鶴ちゃん怒ってたわよ。喧嘩したんでしょー。早く謝りなさいよ」


二階に駆け上がり部屋を開けた。

千鶴はベットにもたれて座っている。

「千鶴ちゃん…ただいま?」

「遅い…」

「ごめん!」

「なんで他の人とごはんなんて行くの?」

「いや、ホントたまたまだから!!千鶴と会えなくなったからラーメンでも食うかなって」

「バカ」



ポロポロと泣く千鶴

「ごめん」

抱きしめると、僕の胸の中で軽く暴れる。

「千鶴がごはん作ってくれてるって知ってたら、毎日絶対家でごはん食べたのにな」

「だって…私が作ったって言ったら絶対美味しくなくても美味しいって言うから」

「いや、本当に美味いんだけど」

「コロッケは?」

「ハンパなく美味かった。しかも千鶴が作ったって知らなかったよ?」

「ふふっ」

千鶴は僕を見上げて笑う。
機嫌は直ったようだ。


「バイト先の人と食べに行ったっていいんだよ。でも、今日はいつもはもっとバイト遅いからまかないで食べちゃうでしょ。約束しとけば早めに終わって、家に帰ってくれると思ったの。だから、ラーメン食べに行ったって聞いてショックだったんだ。嘘ついてごめんね」


「行かない、絶対。でも千鶴がごはん作りに来た日は絶対教えて」

「なんで?」

「早く帰って千鶴に会いたいから」

「私も辰巳にあいたかった」


仲直りのキスをして、台所に戻ってふたりで夕食を食べた。
お袋と驚くほど仲良くなっていて、ちょっと嬉しい気持ちになった。


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