千鶴の僕のために作ってくれた弁当は下の段は白飯が詰まって、端っこに漬け物が付いてた。上の段にはきのことアスパラが炒めたもの、不格好な卵焼き、ピーマンの肉詰め、そして豚の生姜焼きが入っていた。
「これ、全部千鶴がしたの?!」
「え…う、うん…ううん」
「何?フェイントかけてんの?どっちー」
「もぉー!違うよ。お母さんに焼き加減とか見てもらったり、お弁当に詰めるのとかはしてもらった」
「なんだ。そんなん、全部千鶴がやったようなもんだろ」
彼女の頭をくしゃっと撫でて、足を組み直してどれから食べようか選んでいると 千鶴に腕をひっぱられた。
「ねぇ!卵焼きどぉ?形とか変じゃない?」
「形?いや…いいと思うけど」
実際はちょっと焦げてて、キレイに巻けているとは言えなかったが、そんなことはどうでも良かった。
「じゃあ…卵焼きから食べていい?」
「うん!!」
卵焼きをひとつ取って口に運んだ。薄めのだし巻き卵だった。
「うまい!!」
「本当っ?」
「うん。薄味だけどちょーどいーよ。千鶴も食ってみな」
もう一切れ卵焼きを取ると、千鶴の口の前までやった。
「口開けて」
口に入れてあげると口に手をやり、味を確かめるように噛みしめている。
「…うん。お母さんのと同じ味だ」
「あ、コレ千鶴んちの味なんだ。そういや、うちのと違うなぁ」
「えっ!!辰巳のとこはどんな味なの!!!」
「何?どんなって普通だと思うけど…あ、うちのは甘いな」
「甘いの?!卵焼きって甘いの???」
「?普通はそうだと思うけど」
「嘘っ!私、だしの味のしか食べたことないよ!!」
「マジ?あーでも卵焼きって家によって味付け違うって言うからな」
「俺んちはめちゃくちゃ甘い。ぜってぇ、おふくろが砂糖入れまくってんな」
「………」
それっきり千鶴は味の感想を言っても、何か別のことを考えているようで、せっかく千鶴と一緒に食べようと思っていた弁当も最初の卵焼きを除いて自分だけで食べることになった。
「千鶴。コレ、最後の一口なんだけど」
「ああ、うん。食べていいよ」
「お前、全然食べなかっただろ!」
「いいの。お腹空いてないし、昼休みが終わったら帰るから」
そういう問題じゃないだろ… 内心そう思いながらもせっかく千鶴が弁当を作って学校まで一緒に来てくれたので おとなしく食べ終わった弁当箱を片付けるしかなかった。
それから他愛もない話をして、 昼休みが終わる五分前のチャイムで僕らはようやく戻る準備を始めた。
「お弁当マジでありがとう。上手かった」
「どういたしまして!また作ってくるね」
「できれば、もっと一緒に食べたかったんだけどな」
「え?あ、ごめんね。考え事してて」
「何、考えてた?」
「あはは〜内緒」
結局、千鶴はまったく教えてくれないまま、校門まで着いてしまった。
「さっき、タクシー呼んだから、もうすぐ来ると思うけど」
「辰巳、もう行った方がいいよ。授業始まっちゃう」
「うん。俺、今日バイトだから帰り会いに行けないけど」
「わかってるよ。大丈夫。タクシーだから平気だよ」
「…じゃあな。明日はバイト入れてないから学校終わったら千鶴の家行くな」
「はーい。ほらっいい加減行かないとっ」
千鶴は彼女にぴったりとついていた僕の背中を押して、「また、明日ね」と言った。 僕は彼女の方を何度も振り返りながら、校舎まで歩いたが、彼女はもちろん僕の方を見るわけもなく、ただ下を向いていた。
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