20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:彼女と僕 作者:無花果

第13回   陰口
1週間後、千鶴の手料理第一弾が届いた。二段重ねのお弁当箱を持って、朝、学校に行く前に届けてくれた。

「千鶴?どうしたんだよ!こんな早くから」
「お弁当持ってきたの」
「どうやって来たんだ?」
「お父さんに乗っけてもらって来たの」
「そっか、おじさんは?」
「もう行ったよ」
「え?千鶴ひとりで帰れる?」
「大丈夫。ねぇ学校まで一緒に行っていい?」
「もちろん、いいよ」
「よかった」
「ついでに坂窓先生に会っていけば?」
「先生に…」
「まだ自信ない?」
「…ううん、会いたい!」

僕は千鶴の手をしっかりと握った。

「じゃあ、行こう」

そういえば彼女と登校するなんて初めてだな、と言うと千鶴は不思議そうに聞いた。

「どうして?彼女いたじゃない」
「いや、俺朝から学校とか行かなかったし。帰りならあるけど」
「私も初めてだよ!」
「知ってる」
「何それ〜」

家から学校までは徒歩で行ける範囲だったので、僕らは手を繋いで歩いてた。でも、途中で千鶴が急に立ち止まった。

「やっぱり私、帰った方が良くない?」
「何で?」
「だって、私といたら、辰巳なんか言われたりしない?」
「何を〜?」
「だって」
「何も気にしなくていいから。俺のこととやかく言うヤツなんていないって」
「そうかな」
「そうだっての。そんなこと考えるより、坂窓先生に会った時のことでも考えてな」
「そうだよね。どうしよう!緊張するよ〜」
「千鶴、今日は本当に楽しそうだな」
「そうかなぁ〜」
「テンション高けぇよ。朝なのに」
「俺、朝弱ぇからついてけねぇ」
「でも、もぉ起きてからだいぶ経つし」
「何時に起きたの?」
「4時半?」
「マジ?気合い入ってんなー」
「だって…失敗したくなかったから」
「そっかぁ。ありがとな」
「いや!」
「え?!何が??」
「お礼は食べてからにして。おいしくないかもだし」
「俺は別に、味なんてどうでもいいんだけど」
「どうでもいいの?!味付けもお母さんとふたりで考えたのに」
「いや、そういう意味じゃなくて、俺は作ってくれただけでも十分うれしいってこと」
「ねぇ、お弁当もらったのは初めて?!」
「おー…」
「何、その返事は?」
「いや、その違うな。元カノがそういやくれてた」
「…そうなんだ」

あきらかに落胆する千鶴。

「でも、千鶴からもらえたのが今までで一番うれしいからさ。気にすんな」
「…もし前の彼女の作ったのよりおいしくなかったらどうしよう」
「え?いや、アイツほぼ冷凍食品使ってたから」
「……」

聞き取れないくらい小さな声で呟いた千鶴に僕はどうしたんだろうと思った。

「何?」
「別に」
「もしや、千鶴も冷凍だった?」
「違うよー!ちゃんと全部手作りなんだから」

ちょっとむくれる彼女の頭をやさしく撫でた。

「わかってるよ。あんま元カノのこととか気にしなくていいから」
「うん、ごめんね」



学校に着くと、先に千鶴を職員室に案内した。千鶴を見た坂窓先生はすぐに来てくれた。

「千鶴ちゃん!!」
「先生、お久しぶりです」
「元気そうね。大野君から話は聞いてたけど、会えてうれしいわ」
「はい、私もです」
「ねぇ、先生。俺、今から授業行かないとダメだからさ、千鶴といてくれね?」
「いいわよ。一限目は授業入ってないから。千鶴ちゃん、これから朝の職員会議だから、ちょっと廊下で待っててくれる」
「はい」

そういうと、先生は職員室に戻り、ドアを閉めた。

「千鶴、俺行かないと。できればお昼までいて欲しいんだけど」
「うん、いいよ。先生にどっか待ってる場所ないか聞いてみる」
「休み時間になったら見に来るから」
「子どもじゃないんだし、平気だよ」
「じゃなくて、千鶴と学校でいれるなんてめったにないからさ」
「え、あっそうだね」

千鶴は照れたように笑った。

「一緒に千鶴のお弁当食おうな」
「うん、じゃあ、また後で」


教室に入ると、クラスメイトの佐藤が声をかけて来た。

「大野、今日一緒にいたコ誰?」
「ああ、彼女」
「は?マジで。だってあのコ目見えないんじゃねーの」
「だったらナンだよ」
「あ、いや別に」

3年になった新しいクラスの連中は男のくせに人の話がやたらと好きな奴らだった。自分たちに女がいないからか、他人の彼女の話にはやたらとうるさかった。もちろん、僕はそんな奴らと友達になる気もなく、3年になってからは、前以上に一匹狼な存在だった。だから誰がなんと言おうと関係ないと思った。後ろに溜まってる奴らがぼそぼそと話しているのが聞こえようと、反論するつもりもなければ、殴りかかるつもりもなかった。

「え、アレ彼女なん?」
「だってさぁ、普通に言ってた」
「うわぁ、誰でもいいのかよ」
「かわいくても目見えないとか俺絶対ムリ」
「その前にかわいいか?普通じゃね?」
「あーでも真理子ちゃんの次があのコって、ないよなー」
「俺だったら真理子だな」
「お前は慣れ慣れしいんだよ!」

あいつらの話題はすぐに変わった。どの女がいいとか、誰とヤリたいとか。千鶴のことなんて、奴らにとってはちょっとした話題にすぎないことくらいわかっていた。

でも、千鶴には聞かれたくなかった。絶対、傷つくから。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 3657