僕は18歳 彼女は16歳
僕の誕生日が僕らの付き合った記念日になった。
桜の下で僕らはずっと話をしてた。千鶴の家族がこの場所に来るようになった理由とか、いつからお互いに好きだったとか。 千鶴に「キスしていい?」と聞くと「そういうのって聞くものなの??」と言われてしまったり、僕は眼の見えない千鶴に一応気を使ったつもりなんだけど。 それでも、彼女にキスする時、初めての彼女より、自分の方が緊張してるんじゃないかと思うくらい手に汗が滲んだ。 この時だけは千鶴に自分の姿が見えなくてよかったと本気で思ってしまった。
彼女と出会って恋に落ちて恋人になるまで一年かからなかった。でも僕にとって千鶴が彼女になるまでの間は永遠のように長く続く痛みのような、一瞬にすぎる楽しみのような、今思い返しても何とも言えない気持ちにさせられる毎日だった。
そして彼女の誕生日が来て、僕は千鶴の両親に彼氏としてあいさつに行った。彼女の親にあいさつに行くのは実は初めてだった。何度も会ったことがあるのに、お付き合いさせてもらってます。と言うのには照れてしまった。その後、いつも通り、千鶴の父親の酒の相手をさせられていると「あのコを頼みます」と言われた。それはぼそりと一言で、すぐにいつもの明るいおじさんに戻ったが、僕はこの言葉を胸に刻んだ。僕は信じていた。この幸せがいつまでもいつまでも続くものだと。でもいつからはそれは少しずつ欠けていった。彼女が取り戻そうとするたびにまた何かが欠けていった。
でも、それはもう少し先の話。 この時はまだ、そんな先の未来を予知できるわけもなく、僕は、彼女との生活に期待でいっぱいだった。
千鶴と付き合い始めて、僕は真剣に進路について考えるようになった。というのも、将来千鶴と結婚したいと思っていたからだ。千鶴は目が見えないという障害を持ってるし、日常生活で不便なことがあるならできるだけ改善してやりたい。もちろんそのためにはお金が必要だと思ったし、でもうちの親は僕を大学に行かす気なんてないから、どうにか高卒でも就ける良い仕事はないかと考えていた。 そんな時、聡春の先輩であるIT関連の仕事をしてる人と知り合うことになった。この人は聡春と同じ県内では有名な高校に通っていたが、家の都合で大学に行くのを断念して、1年間の専門学校を出て、すぐに就職したらしい。その人は僕に色々と就職のことでアドバイスをしてくれて、僕はその人が行った専門学校に進学することにした。今までバイトで貯めた金がかなりあったので授業料の半額だけ親に頼み込んで出してもらうことになった。千鶴はそんな僕を見て、自分も何かしたいと言い出すようになった。
「何かって何するんだよ?」 「それは…バイトとか学校とか…」 「バイトはムリ!学校はいいんじゃないの?高校?」 「ムリって…」 「千鶴、できることから始めようよ」 「それはそうだけど」 「なんでそんなあせる必要があるんだよ、時間ならいっぱいあるんだからさ」 千鶴は泣きそうな顔で笑った。 「どうしたんだよ?」 「だって…私、ダメだから」 「何だよ、ソレ」 「辰巳は凄く変わった。いつでも優しいし、私のこと考えてくれてる。自分の将来のこともちゃんと決めてるのに、私は、何もないんだよ。」 「何もないことないだろ?」 「高校も行ってないし、お父さんとお母さんのお金で生活してるし、辰巳にばっかり頼ってる…ちゃんと、独り立ちしたいよ」 「何言ってんだよ。お前はまだ17歳だろ。千鶴、世の中の17歳の女ってのはな、親の金で遊びまくって、学校でも授業なんか聞かずに、ノートを破っては紙切れにどぉでもイイコト書いて友達に回したり、机の下でメール打ったり、そぉいうことしかしてねぇの」 「嘘」 「いや、まぁ…別に全員がそうってわけではないけど」 「辰巳は私にどうなって欲しい?」 「そのままでいて欲しいよ?千鶴が千鶴らしくいられれればいいよ」 「…」 「わかった、じゃぁ、千鶴でもできる料理を覚えてよ」 「料理?」 「そう。やっぱ手料理食べたいし、でもやっぱ危ないだろ?包丁とか火とか使うの」 「わかった!!包丁なしでも作れる料理ってこと?」 「おう。まぁ今はカットしてるの売ってるしなぁ〜。火はまぁ俺がいる時に使えば問題ないけど、俺まったく料理できないから」 「じゃぁ練習するねっ」 「楽しみにしてるよ」
正直、別に料理なんてどうでも良かったんだけど、千鶴が嬉しそうに笑ってくれるから、僕も嬉しくてしょうがなかった。何よりも僕のために変わりたいと願ってくれる彼女が愛おしかった。
千鶴はそれから料理の猛特訓を始めた。 時々、千鶴の手に絆創膏が貼ってあると僕はあんなこと言わなきゃよかったと思わされた。でも、どれも大した怪我ではなかったので、やめろとは言えなかった。というより、言いかけたら怒られた。
それから2週間後、千鶴のお弁当第一弾が僕の元に届くことになる。
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