結局、僕は千鶴と貴子が遊びに行く日はバイトを入れた。最近始めたファミレスの店員。今までガソスタ、工事現場、コンビニの店員と色々やったが、飲食業は初めてだった。でも、ファミレスにしては時給が良かったし、千鶴の家からも近かったから千鶴を送った後にすぐ来れると思って決めた。その日は朝からのシフトで、昼時は混んで忙しかったが、3時すぎになって人もまばらになっていた。休憩を40分もらえたから、コンビニに行って、戻ってくる時には4時になっていた。
「大野さん、7番テーブルオーダーお願いします」 「はーい」
僕は7番テーブルを見た。ここからじゃ顔まで見えないが、女の子がふたり座っているようだ。
「ご注文お決まりですか?」
定番のセリフを言って僕はふたりの顔を見た。
「うわっっ千鶴!!!」
そこにいたのは千鶴と貴子だった。ふたりが座っている隣には大きな紙袋が2つおいてある。どうやらもう買い物は終わってるらしい。 「何でここにいんの?!」 「あはは、ほらね〜こいつ全然気づいてなかったでしょ?」 「ほんとですね〜もっとお客さん見てないとダメですよ」 「いやいやいや!!!声かけてくれればよかったじゃん」 「だってあんたつまんなそぉ〜にぼーっとしてるから。あたし辰巳のことガン見してたのに」 「辰巳、真面目に仕事してる〜?」 「いや、してるよ!!千鶴まで何言ってんの?!てか何でココに」 「千鶴ちゃん送って来たんだけどね〜、あんたがここでバイトしてるって言うからいるか覗いてみよっかってなったの。ちょうど喉も渇いてたし〜」 「私も一度辰巳が働いてるの見てみたかったの。ひとりじゃいるかもわかんないし、貴子さんに頼んでみたの」 「あ、そう…」
なんか千鶴機嫌直ってる。よかった。
「じゃあ、ご注文は?」 「あたし、ジンジャエール」 「ミルクティーで」 「ジンジャエールとミルクティーおひとつずつですね」 「「はーい」」
こないだの一件から千鶴と顔を合わせていなかった。何度も謝りの電話を入れようと思ったが、距離をおかないとダメな気もしてできなかった。それにしてもあまりに何もなかったかのように振る舞っている彼女を見て、この6日間どうやって修復しようかと悩んでいた自分がばからしくなってきた。
「店員さん、あの…トイレどこですか?」 「ああ、案内するよ」
僕はさりげなく、千鶴の腕を取り、ゆっくり立たせた。 席から離れると千鶴が僕に話しかけた。
「ごめんね」 「え?」
千鶴の突然の謝罪に僕は少し面食らった。でも内心うれしくて仕方なかった。
「こないだ、辰巳にあたっちゃった…」 「アレってあたってたんだ」 「…荷物持ちまだ有効??」 「何〜今さら?」 「買いすぎちゃって…でも貴子さんが気をつかって私の分まで持ってくれるの。買わせたのは私だからって…」 「で〜?」
ちょっといじわるかとも思ったけど、これぐらい許されるだろうと思った。
「辰巳がバイト終わるまで待ってるから一緒に帰ってくれないかな?」
それは千鶴が僕に初めて言ったお願い。僕の答えはもちろん、聞く前から決まっていたけど。
「ふぅ〜仕方ねぇな〜、今日は5時上がりだからあと1時間待てる?」 「うん!ありがと!!」
めんどくさそうに言ったつもりが千鶴にはお見通しなカンジでちょっと凹んだ上に、千鶴を案内して貴子の所へ戻ると「何にやけてんの?」と言われてしまった。なんとなく自分の感情を隠し続けることに限界はもう限界なのだと思った。
貴子は千鶴と一緒に僕が終わるまで待っていてくれた。その後は別方向だったので、すぐに別れて、千鶴を家まで送った。
「どんな服買ったの?」 「えっとね、貴子さんセレクトのワンピースと寒くなるからコートとあとブーツ」 「コートにブーツね、どおりで重いはずだ」 「えっ本当!?ごめんね!!」 「嘘〜俺、工事現場でバイトしてたこともあるし、こんなん何でもないよ。あと10個は持てる」 「本当に〜?」 「本当だって!」
一緒に並んで歩ける時。何気ない会話。笑ってくれる彼女。満たされる自分。もう、手放すことなんてできない。たとえそれが自分勝手だとしても。この時、僕の中にあった彼女を見守る友情の気持ちは脆くも消え去っていた。
なぜなら、僕は認めてしまったから。
彼女が好き。
今まで出会った誰とも違う。
この気持ちは彼女にしか持てない。
好き。
大好き。
愛してる。
どんな陳腐な言葉より
彼女を思う
この気持ち。
この感情をなんて言葉にしたら
彼女に伝わるのか
その時の僕にはまったくわからなかった。
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