新生活も落ち着き、都会の時間の流れ人の流れにも慣れ、久しぶりの学校生活も満喫していた6月。 智の住む東京も、平年より幾分か遅い梅雨をようやく向かえたばかりだった。 美夏とは違う専門学校を選び、新しい友達も出来ていた。 勿論、美夏とは週に1回か2回は会っていた。 今日は1週間ぶりに美香と会う為、待ち合わせ場所のカフェで智は遅刻している親友を待っていた。 智は待ち合わせ等の時間は必ず守るが、美夏はあまり守ったためしがない。 だが、お互いに時間にうるさくはない為、大概遅れる美夏を智はいつも読書などをして時間を潰しながら待つのだった。 今日も、学校を出る時に美夏から『電車に乗り遅れた!ちょっと遅れる(,,゚д゚)』とメールが携帯に届いた。 カフェに入り最近買った小説を開き、15分ほど経った頃、美夏が小走りでカフェへ入ってきた。 「智〜、ごめん!遅くなって。」 携帯を右手に持ちながら、美夏は左手を顔の前に立てて申し訳なさげに智の座るテーブルへやってきた。 「慣れてますから。とりあえず、飲み物頼んじゃえば?」 智は軽く笑い、メニューを美夏に渡した。 鏡を見ながら髪を整えつつ、美夏はメニューを受け取った。 「智は何飲んでるの?」 「カプチーノ。」 「じゃ、アタシ違うのにしよ。」 水を運んできた店員に、美夏はアイスカフェモカを頼みふーと深く息を吐いた。 「学校出る間際に、先生につかまってさ。まだデッサンの課題出してないのいつになるかって。一昨日が期限だったの忘れてた。」 鏡と携帯を鞄にしまいながら、美夏はため息交じりに言った。 「え、大丈夫なの?今日やんなくて。」 「うん、大丈夫。実は出来てるんだけど、家に置きっぱなしになってるだけだし。」 「美夏って昔からちょっと忘れっぽいよね。東京にいても直ってないんだから。」 智につっこまれ、美夏はへへっと苦笑いをした。 そこへ店員が美香の頼んだアイスカフェモカを運んできた。 美夏は喉が渇いていたらしく、勢いよく半分ほど流し込んだ。 「なーんか、東京ってジメジメしてるよね。梅雨とかって特にベタベタ何かがまとわり付く感じだし。」 「あ、美夏もそう感じた?実はアタシもそう思ってた。都会ってどこもそうなのかなぁ?ビルばっかだから、空気が淀んでるとか?」 「や、それはどうだろ?」 「あ、失礼。」 そんな他愛もない話をしていると、美香の携帯がブーブーっと揺れた。 電話ではなくメールのようで、鞄から携帯を取り出し美夏は画面に見入っている。 読み終えたところで、美夏は顔をあげた。 「智、そういえばバイトは?」 「あ。」 そうなのだ。 今日二人が会っているのは、智のバイト先を探す為でもあるのだ。 田舎で就職していた為貯金はあるが、元々『働く』ということが単純に好きな智は、授業時間外で出来るバイトを探したいと美香に相談していたのだ。 「あ、じゃないでしょ。今日はそれメインなんだから。」 「んー。なんか、雑誌読んでてもピンとくるのなくて。どれも同じようなのばっかだし。」 「ああ、居酒屋とかファーストフードとかコンビニとか多いよね。」 美夏はファーストフードでバイトをしている。 実は、今の彼氏もそのバイト先で知り合ったのだ。 「美夏は、なんで今のとこ選んだの?」 「へへ・・・。実は、そこで働いてる彼氏がずっと気になってて、近づくには同じとこで働くのが一番早いかなって。」 智は目を開いてしまった。 「え〜!?そうだったの??初めて聞いたよ、そんな話!え、え、てことは美夏からアタックしたってこと?」 ちょっと興奮気味な智から突っ込まれ、美夏は照れながら頷いた。 智は椅子に深く座り直して、口をポカンと開けている。 「て、アタシの話は今はいいでしょ。智は、そうゆうとこじゃないとこがいいんだよね?」 「あ、ああ、そうなの。そんなの長野でもあったじゃない?こっちだからこそあるバイトって何かないのかなぁ?って思って。」 「じゃあさ、こんなんはどう?」 そう言って美夏は、自分の携帯を智に見せた。 「?」 智は不思議そうに美香の差し出した携帯の画面を見た。 「智のことを彼氏に話したの。そしたら、彼氏の友達の彼女がね、新しくインターネットプロバイダーのコールセンターの立ち上げスタッフを募集してるとこを見つけて働くことになったんだって。ここなら、学校からもそんなに遠くないし、時間もシフトで夕方とかあるし、時給もまぁまぁいんじゃないかって。」 「コールセンター・・・・?」 聞きなれない言葉に、智はメール本文を食い入るように読んだ。 美夏の説明に加え、予備知識がなくても事前研修・マニュアルなどもあること、また今回新規ということもあり30名募集とのことも書かれてあった。 「へ〜・・・・面白そう。」 智の反応に、美夏はにやっと笑って智に見せていた携帯を自分の手元に戻した。 「面接受けてみる?」 「・・・・ん〜・・・そうだね。受けてみよっかな。」 「んじゃ、彼氏に言っておくよ。後で日時とか場所とかメールする。」 「ありがと〜。でも、コールセンターとかって、都会な感じだよね!」 「ね、やっぱ都会は違うね。」 田舎者丸出しの会話をしながら、二人は笑いあった。
智はこの何気ない決断が、この先にある淡い出会いにつながろうとは夢にも思わなかった。 中学生や高校生の頃のようなものではなく、初めて恋愛と呼べる出会いが待っていようとは。
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