池袋警察は西口をでると、歩いて10分ほどである。刑事課は4階にあった。 生活安全課と刑事課がエレベーターを挟み、左右に分れている。
柏崎は一人の中年女性から話を聞いていたが、力になれることはありそうになかった。 中年女性の言い分はもっともであるが、何せ証拠もなければ暴力を振るったわけでもなく、警察がでていく理由がない。 女性の言い分から、詐欺だろうことは推測されるが詐欺という確証がないのだ。
柏崎は一応の事情を聞き取り、中年女性に相手の住所を確認して、本人を確かめてくるよう説得した。これは警察が良く使う手だ。 民事不介入の場合、本人に証拠を探させるしか手がない。警察なら簡単なことでも、いざ民間人がそれをやるとなれば大きな負担となり、ほとんどあきらめる。 不本意だが、今回は何もしてあげられないのだ。 中年女性は大きなため息をつき、席をたった・・・。
「警察というところは、何のためにあるんですか?相談しろといいながら、それはできないって、じゃどこにいったらいいんですか?」 女性の口から柏崎に向けられた言葉は、どの被害者からも出る言葉だった。こうなると、被害者の怒りは警察に向けられる。実際何か起きなければ警察は動けない。
「おっしゃることは良くわかるんですが、警察としては何もできないんですよ。相手は何かしたわけじゃないんですから・・・。」
「じゃ、何かあったら警察は動くって・・・?殺したり殺されたりしたら動くってことなんですか?人間追い詰められたら、犯罪だって犯すでしょう?それを相談してるのに何もできないっておかしくないですか?」 女性はかなり冷静に話してるが、怒りは頂点のようだった。 柏崎はは女性をなだめすかし、相手の家を確かめてくるように説得した。女性はまだ納得がいかないようだったが、しぶしぶ席を立った。
「よう、あの女性は今回3回目だよ?この間も来たが、君がいなかったから、俺が話しきいたんだけどね。詐欺師とわかってるけど、証拠があまりにも少なすぎるしなあ・・・。悪いやつにひっかかったなあ・・・。」 先輩刑事の佐々木が声をかけてきた。 「そうですね。話を聞く限り、僕たちが出張るようなことでもないような・・・。でもいやな予感がするなあ・・・・」 「どうして?」 「このごろ、あの手の相談多いんですよ・・・。不景気のせいなのか、世の中景気回復といってますが、犯罪調べる限りでは景気がいいなんて思えないですからね。」 柏崎は素直な感想を述べた。
女性の相談は詐欺にあったという相談だった。警察ではそれらしいことは想像できるが、相手がどこの誰なのかわからないのでは調べようがないし、実際どうにもならない。 女性の言い分はこうである。仕事を請け負ったが、いざ金を払うときには相手が逃げ出してしまい、不良債権をつかまされたという話だった。よく調べもしないで受けたほうも悪いが、間に入った保証人もグルで逆に金を貸してとられたままドロンされたというのだ。 実際相手の家にいっても、もぬけの殻で、違う人が住んでいたというわけである。 巧妙に仕組まれているのはわかるが、その人物の名前さえ偽名の可能性があり、結局誰なのか検討もつかないといった有様だった。
「実際この手の話は、捜査の仕様がないんだよなあ・・・・。」 佐々木がつぶやいた。 「そうですね・・・。」 柏崎も相槌を打つしかなかった。
女性が警察をでたのは、夕方だった。2時間以上も話して、また埒があかず、途方にくれていた。外は小雨が降っており、池袋駅まで早足で歩いていた。 実際あの男を捕まえても金などかえってくるはずもない。しかし、黙って見過ごし泣き寝入りもできない。二人組みの一人だけでも探さない限り、腹の虫が納まらない。 1000万という金は 大金だった。
花屋の前を通り過ぎると、花屋には紫陽花の花が鉢植えになって飾られていた。女はふと、田舎の山すその紫陽花を思い出していた。
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