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作品名:だに 作者:海老沢 智

第3回   記憶3
 修平はウェイトレスにコーヒーを注文すると大きくため息をつき、タバコに火をつけた。
タバコをくゆらせながら周りを見渡すと、知った顔の男が3つ先のボックス席で男と話していた。
修平は男と目が会うと軽く会釈をし、目をそらした。頭の中で記憶をたどる。これから会う佐藤という男に一回紹介され、挨拶を交わしただけだったが名前が思い出せない。

「どうせ、あいつの紹介するやつはろくなやつではないな・・・・」

修平はそう頭の中で考えると、書類を出してまた確認をした。

書類は 就業証明書・雇用証明書などだった。事業計画書などの書類もある。それにはリフォーム会社の名前が書いてあり、修平は苦々しい顔になった。
書類自体に不備はなかった。

 ふと、時計に目をやった。約束の時間を30分も過ぎている。

「珍しいな・・・遅れるなんて・・・電車でも遅れてるのか・・・・」

修平は、何気なくそう思うと、さっきの男のほうに目をやった。商談がまとまったらしく中年の男がそいつに軽く会釈をしてわかれるところだった。なにやらその男はほっとした顔をしているが、ニコニコしながら相手をあしらう男のほうは目は笑っていなかった。
話が終わったのか相手が出口に向かうと、紹介された男がこちらにやってきた。
修平は軽く身構えたが、顔は平然を装っていた。

「本田さんでしたよね?覚えてます?」

「ええ・・・佐藤さんに紹介されたましたよね?名刺をいただかなかったものですから、お名前はちょっと・・・・」

修平のいったことはほんとだった。何回か顔は見ているが、名前を教えてもらったのはほんの挨拶程度で、覚える必要がないと判断していた。

「矢口ですよ・・・。名刺渡しますね」

「ありがとうございます」

修平は名刺をもらうと、自分は名刺を持ってないことを告げ、相手の出方をまった。

「佐藤さんと待ち合わせ?どうなんです?そっちの仕事、うまくいってます?」

矢口が突拍子もなく仕事のことを切り出したので、修平は言葉に詰まった。

「仕事って、佐藤さんのですか?僕は彼に頼まれた書類作るだけだから、うまくいくも何も何をやってるのかわかりませんけど・・・」

「えっ?知らないんですか?またまた・・・。ここちょっといいかな、」

矢口は修平の前の席に腰掛けると、ウェイトレスに追加のコーヒーを頼み、女がいなくなると修平に向き直った。

「彼、もうすぐ来るの?来る前に僕は退散しなくちゃならないけど、仕事のこと聞いてないの?」

同じ話をまたされたので、仕方なく修平は書類を任されていることだけ 告げた。

「そうなんだ・・・。じゃ 君は何も知らされてないわけだ。わかったよ。僕が仕事頼んだら、やってくれる?」

「えっ?佐藤さんと別にですか?それはなんともいえませんね。ほかの仕事もあるし、佐藤さんに話してみてください」

我ながら、うまい振り方をしたと思った。こんな仕事を何本も引き受けるわけにはいかない。修平は実際何をやっているのか見当がついていた。しかし、本当のことを佐藤が言うはずもなく、こっちも聞かないでいたのだ。
事実がわかれば修平は詐欺師の片棒を担いでいることになり、実際それがわかっていたのだが、知りたくないという気持ちが強いせいで事実を聞こうとはしなかった。

「儲け話があるのさ、佐藤さんよりいいかもだよ?」

「ありがとうございます。時間に余裕ができたら考えます」

修平は心の中では、さっさと消えてほしいと思っていた。
しかし、佐藤が遅すぎる。佐藤が連絡もせずに遅れることはないのだ。

「ちょっと電話いいですか?こんなに遅れるなんてないんだよなあ・・・・」

矢口に断ると、矢口は考えておいてくれるよう頼むと席をたった。

修平は時計を見ると1時間近くたっている。修平は携帯の電話から佐藤に電話をした。呼び出し音が続く。10回目のコールのあとに留守番機能が働き録音準備のピーという音がした。

「もしもし、本田です。ずっと待ってるんですが、何時くらいに着きますか?連絡ください」

修平は留守電をきり、返事をまった。10分 20分 30分・・・・。几帳面な佐藤からいつもなら、5分以内に折り返しの電話が入る。しかし、今回はない。
修平は見切りをつけ、喫茶店をでた。

「何かあったのだろうか・・・・?」
修平は、それ以上のことを想像することもできず、家路に帰った。
修平が帰ってからも連絡はなく、修平はおかしいと思いながらも自分の生活が大事だった。


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