目を閉じても、それは消えない。いつの間にかその部屋は、私の頭の中まで侵食していた。相変わらず私はただの視点だったけれど、最早ただの視点は確固とした一つの立派な存在になっていて、容易に消せるものではない。目を閉じても、私は消えない。 わかるよ。
本当に?
わかる、気がする。 私が全てということは、つまり。
つまり。
あなたが全てということね。
奇妙な繭はにんまり笑った。 私が今まで見たことのないような、それは奇妙な微笑みだったけれど、それは些か衝撃的ですらあったけれど、それは存在自体がとても奇妙な代物だったので、その奇妙な微笑みは何よりも奇妙な繭に相応しく、むしろ奇妙でない微笑みを発する奇妙な繭など私は絶対に想像できないしそれを笑みと認めることも出来ないだろうと確信できる、奇妙な繭が浮かべた奇妙な微笑みは、つまりとても素敵な微笑みだった。 私は唐突にそれが、その奇妙な繭が羨ましくなる。自分に相応な微笑みを浮かべられる奇妙な繭。視線を気にして背筋を伸ばし、口角をゆっくりスマートに持ち上げる、いつか銀幕に見た女優に憧れて、自分も彼女と同じように息を飲む涙の沈黙の中たくさんの目に映されているのだという滑稽な妄想に縛られた挙句、どうしようもなく行き詰って生まれてしまった残酷な微笑みとは違う。根本から異なっている。 (素敵で)奇妙な微笑み。
ねぇ、わかる? 僕は今、とても嬉しいんだ。 君と僕は繋がっている。僕にとっての君は君にとっての僕で、僕と君は今こうして同じ部屋で立場は違うかもしれないけれど同じ空気に触れていて、ここには僕と君しか存在しなくて、つまり僕と君は繋がっているんだ。 君にも分かるだろう?この言葉の響き。うっとりするようなバランス。「縛る」よりも「許す」よりも断然素敵だね。僕たちはただここに存在するだけでいい。特別な何かを要求する必要もない。繋がるっていうのはそういうことさ。僕がいる。君がいる。僕が見る。君が見る。僕が思う。君が思う。 ほら、僕達は繋がっている。
ミワクテキナコトバ。
私と繭は繋がっている。
キミガスベテサ。
弾ける。白い部屋もバラ色に染まる。
キレイだね。 君が創造した世界は。
いつの間にかその部屋はカラフルに弾けていて、繭と私を中心にくるくる回っていた。 私は見えないけれど確かにそこに存在していて、今、繭と二人で世界の中心になっている。カラフルの中心。バラ色の世界。弾ける世界。奇妙な繭。
踊ろう。奇妙なステップ踏んで。 イビツなイメージを足が描けば腕はユガンだメロディー鳴らす。 君は透明人間で、僕の衣装は繭だ。 マトモなことは一つもない。恐れるものがないんだから。 ここは僕と君だけの世界。 僕らが繋がり狂う部屋。
ねぇ、わかるだろう?
わかる。 私たちは繋がっている。
ツ・ナ・ガ・ッ・テ・イ・ル!
私の創造は私の想像を超えてしまった。(若しくは想像の暴走…創造は踏み台に過ぎない。)うっとりするようなバランス。カラフルな部屋。バラ色の世界。その素敵な空間。毒々しさ。私の心はガンジガラメ。私たちが繋がり狂う部屋で笑い狂って繭と二人で踊り狂って姿も忘れて浮かれ狂ってガンジガラメで酔い狂ってくるくるくるって回り狂ってつまり私は繭に狂った。クルってしまった。
君が全てさ。
アナタノトリコ。
僕達は繋がっている。 運命も宿命も、このバランスには敵わないよ。
音楽は鳴り止まない。踊り疲れても止められない。素敵に笑った繭と私は世界に二人だけで、
世界に一人だけの僕たち。
世界には、あなたと私の二人だけ。
世界に一人だけの僕たち。
私たちは世界に二人だけ。
違うよ。 僕たちは一人だ。
空白。途切れる、音楽。バラ色は幻? それは多分、私と繭の間。繋がったものが解けてしまう。唐突な喪失。クルってしまった私。クルわせたのは繭。砕ける、私は砕けてしまう。繭は素敵に笑う。私の崩壊を見て笑う。
大丈夫。 僕達は繋がっている。 解けないよ、一人だけの僕たち。
世界に一人だけの私たち。 私は世界に一人だけ。 私とはつまり私であり、私とはつまり私以外の誰かであり、私とはつまり、
僕のことだよ。
奇妙な繭。
僕とはつまり僕のことで、僕とはつまり君のことで、僕とはつまり貴方のことさ。君から見れば僕と君とは別の存在に見えるかもしれないけれど、大きな目で見たら僕たちは一人なんだ。たくさん感じる僕たちも、本当は全部一人の僕で、結局のところ僕たちは君の内側でざわめいている一人の君で、要するに僕たちは総じて一つの貴方なんだ。 ねぇ、わかるだろう? 僕たちは、つまり貴方なんだよ。
「貴方なんだよ。」
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