ただいま。 と、それは言った。
初めまして。 と、私は応えた。
それは、可笑しそうに笑った。
だって私は、応える術を知らない。
目を閉じる。イメージする。 私は世界を想像する。私は世界を創造する。
そこは白い空間。果ても知らない白い部屋。何か、綿のようなものに包まれて守られている、大きな大きな白い部屋。 目を閉じれば入り込んでくる白。誰にでも存在するべき場所なのか。それとも、私が創造した場所なのか。
ここはたくさんの君の世界だ。
声が、聞こえる。
たくさんの私の世界。
でも私は、そこに存在はしていない。私は夢でも見ているように、ただの視点としてその空間を漂っている。あらゆる角度から自由自在に思うがままにこの白い部屋を見ている。そうすることができる、何か特別な能力と権利を持っているような。 けれどそれがただの気のせいだということを私は知っている。この部屋は、恐らく誰もが訪れることのできる場所なんだ。そんな気がする。
例えば、あの子にも。
例えば、あの人にも。
例えば、貴方にも。
目を閉じる。イメージする。 貴方は世界を想像する。貴方は世界を創造する。
ここはたくさんの君の世界だ。
その部屋の中央には、奇妙な物体がある。楕円。白。その部屋を構成しているものと全く同じ素材で出来ているようで、その奇妙な物体は自身の唐突すぎる存在とは裏腹に、そこに、その場所にあるのが当然だという体でただそこにある。そしてそれを見ている私も、その物体がその場所にあるのを当然のことだと受け止めている。 正体は分からない。存在は認めても正体まではまだ分からない。私はただの視点。目、でしかない。だからその私に分かる範囲で言うならば、それは、卵、というよりは繭のよう。表面は薄くて深い。半透明のフィルムが何層にも重なっている。奥を覗こうと視点を動かしてみても、どこから見ても同じ深さしか見えない。見られることを望んでいても、覗かれるのは嫌みたいだ。私は緩やかに拒まれている。 だから申し訳ないけれど、これ以上の情報を貴方にあげるのは無理。私だって、これ以上はどうやったって知りようがない。あっちが拒んでいるのならば、こっちはただ開かれるのを待つだけだと思うのだけれど、それは間違っている?強引にでも押し開けてみた方がいい? もしもそう思うのなら、残念だけど貴方の想像力は少しだけ足りないのかもしれない。
想像してみて。 白い部屋。覗かれるのを拒んでいる物体。
そう。それはきっと最初からそういう物体なんだろう。 酷く朧な存在だけれど、確かにそこにあって、覗かれるのを拒んでいる。それは今ここにいる私のように、貴方のように、その曖昧な存在を例えば誰も侵すことが出来ないように、そういうように定められている物体。 奇妙な繭。
ここはたくさんの君の世界だ。
さっきから話しかけてくるのは、誰?
奇妙な繭。
え。
待ってて。あとちょっとで、そこへ行くから。
あとちょっと?
そう。あとちょっと。
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