先輩たちと伊豆の堂ヶ島に泊まりで遊びに行った夜、麻雀で負けた俺とトランプで負けた智が即席のカップルにされて、罰ゲームを受けることとなった。内容は肝試し。そのとき俺たちが泊まっていたのは高台にあるコテージ風の建物で、そこから海岸へと抜ける細く真っ暗な山道を往復するというものだった。山道の終点にちょうど都合良く10数体の地蔵が並んでいる場所があり、そこの地蔵に証拠として目印を置いてくることとなった。目印とされたのはチューインガムだった。 コテージを出るまではすごく怖がって、今にも泣きそうだった智が、怖いから手を繋いで欲しいと哀願してきて、その手をとりそこを出たときに 「えへ、わざと負けちゃった」 と言った。 「何で?」 俺が聞くと 「カズ君が麻雀に負けたって聞いたから」 と言う。 「怖がりのくせになんでそんなことしたの?」 「二人きりになりたかった」 少し潤んだ瞳で智はそう言った。 それから地蔵が並ぶ所にたどり着くまで、俺たちはいろんな話をした。智が中学を卒業するときに俺に告白を試みたが出来なかったことや、それからもそのチャンスを待ち続けていたのに、その機会が1度も訪れなかったことなどを知った。実は俺もずっと憧れ続けていた先輩だったから、悪い気がするどころか、少し舞い上がっていて、内心はもう肝試しどころではなかった。多分本当の幽霊が現れても、そのときの俺は気付かなかったに違いない。 1体の地蔵の前にガムを置いて、智の手を引きコテージに戻ろうとしたとき、 「女のあたしから言うなんてはしたないかもしれないけど」 と前置きをされた上で 「カズ君が好き」 と告白された。智の潤んだ瞳に月が入り込んだ、そのときの光景を今もはっきり思い出すことが出来る。このとき誰も付き合っている相手がおらず、いわゆるフリー状態だった俺は、快くその告白を受け入れて、付き合うことを智に伝えた。憧れの先輩から告白されたのだから、相当な嬉しさだったのだが、あえてそれは口にせずにいた。この日から『智ちゃん』が『智』に変わった。 地元に戻ってからすぐは『堂ヶ島カップル』と、とんでもなく恥ずかしい呼び方をされていたが、そのうちそれも自然に消えてなくなった。 「カズ君も早く入って」 せっかく回想に浸っていたのに、智に背中を押され、そのままの勢いで俺はフェンスをくぐり中に入った。
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