「マジでここから入んのかよ」 弘樹が心配そうな顔で振り返る。無理もない。俺たちはどこからどう見たって『こそ泥』だ。しかも俺たちのいる歩道は、真夜中ということもあって車の往来こそ少ないが、トチノキ並木が続くわりと広い大きな通りだ。この通り沿いにいくつかの学校が点在していることから『文教通り』と名がついていた。 智の母校、石橋高校のプール脇、ネットフェンスの破れた箇所に4人はいた。 「弘樹君早く早く。後がつかえちゃうから」 ここでも智はひとり気を吐き元気だった。 「こりゃあ進学校の生徒が勧める行為じゃないなぁ」 俺が言うと 「あら、カズ君知らなかった?」 「何が?」 「あたし落ちこぼれだから」 いつもの可愛い笑顔。でも俺は知っている。この進学校の中でも智の成績はいつだってトップクラスだ。担任から早稲田への進学を勧められていたことも、俺は別な人間から聞かされていた。そんなことを聞くたびに『不釣合い』という言葉が脳裏をよぎり、俺は少し暗い気持ちになる。どうして智は俺なんかを好きになったのだろう。 そう俺たちの付き合いは智の告白から始まった。
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