すごく頑張って教習に通う智に、なんでそんなにがむしゃらに通うのかと聞いたことがある。しっかりした智のことだからもう既に就職時を考えてのことだと思っていたが、意外にも返ってきたその答えは、 「カズ君を乗せてドライブに行きたいから」 だった。 「いつもバイクに乗せてもらってばかりだし、今度はあたしが乗せてあげたいの。一番最初にカズ君を」 とも言った。 駐輪場へ着いて智にヘルメットを手渡しながら、この女性を一生愛していけたならどんなに幸せだろうと考えた。今、俺と智が間違いなく存在するこの夏が、ずっと終わらない夏であって欲しい。バイクを発進させながら俺はそんなふうにさえ思っていた。 信号待ちの間に俺は振り返り、後ろの座席に座る智に声をかけた。 「これからどうする?」 「ちょっと遅めのランチしたい」 「あ、それいいね。実は俺もまだなんだ」 「じゃあさ、アップル行こうよ」 「了解!」 俺は笑顔で答えた。もっともヘルメットを被っているので、智にその笑顔が見えたのかどうかは分からない。横の信号が黄色に変わった。 「しっかりつかまってて」 俺は智にそう言うと、正面の信号が青に変わるのと同時に愛車のCBXを思い切り加速させた。バイクの加速についてこられる車なんてそうそう存在しない。かわりに1台のやはりタンデムしたバイクが、凄い勢いで追いかけてくるのがミラー越しに見えた。車種はなんだろう。あいにくミラーは小刻みに震えていて、まだ少し遠い相手の車種までは確認出来ない。 やがてそれは少し速度を落とした俺達に追いつき、さらに併走をはじめた。俺より先に智が手を振った。弘樹とチャコが乗ったXJだった。 「よお!」 大きな声で俺は弘樹に声をかけた。 「カズぅ、どこに行くんだよ」 弘樹も負けずに大声で聞いた。 「飯食いにアップル行こうと思ってさ」 「俺たちも昼飯まだなんだわ。一緒に行っていいか?」 「もちろんいいよぉ。おいでおいでぇ」 俺の代わりに智が答えている。 「じゃ、決まり!」 そう言う弘樹に、俺は一瞬だけ左手の親指を立てて答えた。 やがて片側2車線の広い通りに、派手な色のフォルクスワーゲンのボディが突き刺さった建物が現れた。目立つようにわざとそうした装飾を施しているのだろう。 2台のバイクは車体を傾かせ、流れるようにその店の駐車場へと入って行った。
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