「ほら、智ちゃん戻ってくるよ」 「だったらこの手をはなしてくれる?」 「一度でいいから、後ろに乗せてくれるって約束したら」 舌をだしながら言うもんだから、こっちは本気なのかどうか全く分からない。 「本気で言ってないだろ、姉御」 「バカ。ほんとに鈍いんだから」 全然怒ってない顔で姉御は言った。しかしまだ俺の頬をつねっている。 「あぁ、カズ君!待っててくれたの?」 智が小走りに近付いてきた。俺と姉御の顔を交互に見て、 「また何かやったの?」 と、少し切なそうな顔をした。 「ほらみろ。誤解されちまったじゃねぇか」 俺は必至の眼差しを姉御に向ける。 「こいつったら堂々と煙草なんか吸ってるから注意してたのよ」 機転を利かせた答えのつもりなのだろうか、とにかく姉御は智にそう言った。 「だめだよカズ君。煙草は」 「今更何を言うか、この小娘は」 相当おちゃらけて言ったつもりだったのに、智はまた切なそうな顔をした。話題を変えて早くこの場を切り抜けなくては、なぜか俺はそう思った。
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