教習所の待合室は効き過ぎるくらい冷房が効いていた。もうすぐ智の教習が終わる。俺より1歳年上の智は、当たり前だが車の免許をとる為にここに通っている。俺がバイクの免許をとったのもここだった。 テレビを見ながら煙草をふかしていると、受付カウンターの中から姉御が手招きをした。本名は確か柿沼さんと言ったはずだが、俺がバイク免許取得の為にここに入所した時からすでに皆から姉御と呼ばれていた。 俺はくわえ煙草で歩み寄る。 「こら、未成年、よく堂々と私の前で煙草なんて吸えるわね」 「別にいいじゃんか。制服じゃないし知った仲だろ」 「そういう口をきくんだから。車の免許をとりに来た時は受付で落としてやる」 「あ、ひでぇ。そしたらヨソに行くもん」 「あ、ひでぇ」 俺の口真似をする姉御。 「んで何よ。話がある訳じゃないの?」 「暇そうだからからかってみただけ」 「姉御も暇って言ってるようなもんだぜ、それって」 「そうとも言う」 「アホ丸出し」 「ところで智ちゃんのお出迎え?」 「うん、そう」 「いいなぁ。あたしもバイクの後ろに乗せてくれるって」 「言ったっけ?」 「言った。なのに全然だもんなぁ。智ちゃんばっかり」 「あはは。俺さ、年増は苦手なのよ」 「ひっどぉい!智ちゃんだって年上じゃん」 「姉御ほどじゃないじゃん」 俺がウインクしながらそう言うと、姉御が少しふくれっ面をして俺の頬をつねってきた。しかしなぜか少し嬉しそうな顔もしている。 「姉御いじめっこだろ?」 「あんたみたいなのにだけね」 可愛い顔立ちをしてるくせに酷く憎々しいことを言う。姉御とじゃれあっていると教習終了のチャイムが鳴った。
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