あの日から10年も経つというのに、俺はまだ短すぎた夏にさよならを出来ずにいた。変わったことと言えば、本当の笑顔を忘れてしまって、そのせいでだいぶ友達をなくしたくらいだろうか。あの事故以来、俺はなんとなく地元の人間との接触を避けるようになり、周囲もそっとしておきたかったようで、その結果、地元で俺に触れようとする者は家族以外誰も居なくなった。 高校を卒業すると、俺は東京の専門学校に進み、そしてそのまま東京で就職をした。それはチャコにとっても同じだったようで、風の噂で彼女もやはり都会へ出たと聞いていた。俺も全く彼女には会っていない。 今夜も月が綺麗な夜だった。プールでの裸の智を思い出し、またひとりそっと涙を流す。多分俺は、もうずっとこのままなんだろう。都会で暮らすうちに、小さな出会いはいくつかあった。しかしそれを進展させない俺がいる。心をどこかに置き忘れてしまったようで、新たな恋をしたいとも思わなかった。でもそれは仕方のないことだろう。だって俺は今でも智に恋してるのだから。もう届くことのない想いだけど、いやそんな想いだからこそ、俺は自分の墓場まで持って行こう。智が逝った日、一緒に連れて行って欲しいと願ったくせに、今もこうしてつまらない毎日を生きている。俺はきっと嘘つきなんだろうな。 階下で弟が呼んでいる。弟夫婦も明日、横浜に帰るようなので、多分飲もうということなんだろう。俺は涙を拭い、いつものように作り笑顔をしてみた。明日は智と弘樹の墓前参りをしてから東京に戻ろう。ベランダ越しに見る月は、とても青白く冷たい美しさだった。
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