「智の教習は?」 「明日は学科だけのつもりだから、予約は入れてないよ」 「じゃ、どうするよ?夕方でいいなら行けそうだぞ」 「行こうよ、行こうよ」 子供だなぁ弘樹は。よほど今日が楽しかったのかはしゃぎ過ぎだって。 「じゃあさ、俺がバイト終わったらチャコを迎えに行くわ」 「あ、それいいかもね」 「そのかわり弘樹は智を乗せてきてくれ」 「ああ、いいよ。智ちゃんもそれでいい?」 「うん、いいよ」 「じゃ決まり。とりあえず竹とんぼに集合!」 竹とんぼとは4人行きつけの喫茶店だ。溜まり場、そう表現した方が適当だろうか。 「オッケェ!」 「智、気をつけてな。弘樹の運転は荒いから」 「んなことねぇって。安全運転だよ、ずっとさ」 俺はチャコを振り向き、 「ああ言ってるけど?」 「カズよりは下手くそかもね」 チャコは笑いながら言った。チャコは俺のことを呼び捨てにする。昔から変わらない。俺も尚子とは呼ばず、ずっとチャコだった。弘樹は拗ねている。3人は声を出して笑った。 バイクの所まで来ると、それぞれのバイクに2人ずつまたがり、『また明日』と言って別れた。俺はそのまま智の家まで向かう。近くに公園があり、そこにいつもバイクをとめる。そして少し公園で話をして何度もキスを交わす。これが会った時の決まりごとのようになっていた。今夜も何度となくキスを交わし、やがて智が『そろそろ戻るね』と言うまでベンチに座り話をした。 ここからは歩いて智を玄関先まで送る。俺のバイクの集合管の音がうるさいからだ。合法的なマフラーであっても、その音はやはりノーマルマフラーの比ではない。そのことにはいつも気を遣っていた。 「じゃあ明日、楽しみにしてる」 「今夜は予想以上に楽しかったね」 「うん、そうだな」 「あたしの体、きれいだった?」 あっけにとられていると、智は舌をぺろっと出して笑った。そして俺の頬に短いキスをしておやすみと言った。 「気をつけて来るんだぞ明日は」 「うん」 「おやすみ」 俺は智の背中を見送り、玄関の中に消えたのを確認してから公園に戻った。完全に智に参っている。そう思いながら煙草に火を着けた。
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