僕は焦りながらも必死に言葉を探した。 しかし頭の中に浮かぶ言葉の切れ端は、どれも思ったような内容を具現できないでいた。 まさか、川沿いを歩いていて、彼女の姿に見とれ、わざわざこの橋の上まで歩いてきたとは言えない。 僕が黙っていると、彼女は、 「変な人」 と言い残し、その場をあとにした。 僕の心のなかには軽い焦燥感だけが残った。 空からは冷たい雨が降り出した。 雨は僕の体から熱を奪うだけで、なにも与えてはくれなかった。 僕は雨に濡れながら、元来た道を帰っていった。 雨はいよいよ本降りになり始めた。
家へ帰り、すぐにシャワーを浴びた。 頭を洗ってるときも、体を拭いてるときも、彼女のことが頭から離れなかった。 もう六年近く恋をしていない僕には、ひどく懐かしい感覚だった。 僕は窓の外を眺めながら煙草に火を点けた。 細い針のような雨が軽快な音をたてて地表に降り注いでいる。 漆黒に染まった景色の奥では、夜の鳥が微かな鳴き声をたてていた。
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