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作品名:橋の向こう 作者:たか

第2回   2
 僕は焦りながらも必死に言葉を探した。
 しかし頭の中に浮かぶ言葉の切れ端は、どれも思ったような内容を具現できないでいた。
 まさか、川沿いを歩いていて、彼女の姿に見とれ、わざわざこの橋の上まで歩いてきたとは言えない。
 僕が黙っていると、彼女は、
「変な人」
 と言い残し、その場をあとにした。
 僕の心のなかには軽い焦燥感だけが残った。
 空からは冷たい雨が降り出した。
 雨は僕の体から熱を奪うだけで、なにも与えてはくれなかった。
 僕は雨に濡れながら、元来た道を帰っていった。
 雨はいよいよ本降りになり始めた。
 

 家へ帰り、すぐにシャワーを浴びた。
 頭を洗ってるときも、体を拭いてるときも、彼女のことが頭から離れなかった。
 もう六年近く恋をしていない僕には、ひどく懐かしい感覚だった。
 僕は窓の外を眺めながら煙草に火を点けた。
 細い針のような雨が軽快な音をたてて地表に降り注いでいる。
 漆黒に染まった景色の奥では、夜の鳥が微かな鳴き声をたてていた。


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