橋の上に女が立っていた。 彼女の視線は川向こうに小さく見える小学校へと向けられており、僕の存在には全く気づく気配がなかった。 墨を塗りつけたようなぶ厚い雲が太陽の光を覆っている。 全ての物質が本来の光沢を失った空間で、彼女の着ている赤色のセーターは暗闇で見る蝋燭の炎のように優しく輝いていた。 フランスの高名な画家が喜んで描きそうな光景だった。 僕がその場に立ち尽くし彼女に釘付けになっていると、 彼女はようやく小学校から僕へと視線を移した。 顔立ちも綺麗な女性だった。 目元や口元に若干幼さが残るものの、ほっそりとした顎のラインと少し丸みを持った胸のふくらみが、女としての成熟期を迎えていることを示していた。 おそらく二十歳前後だろう。 僕より十歳以上、年下なのは間違いない。 彼女はゆっくりとした口調で話かけてきた。 「ここでなにを?」 人気の全くない橋の上だ。彼女の質問は至極当然のことだった。
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