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作品名:橋の向こう 作者:たか

第1回   1
 橋の上に女が立っていた。
 彼女の視線は川向こうに小さく見える小学校へと向けられており、僕の存在には全く気づく気配がなかった。
 墨を塗りつけたようなぶ厚い雲が太陽の光を覆っている。
 全ての物質が本来の光沢を失った空間で、彼女の着ている赤色のセーターは暗闇で見る蝋燭の炎のように優しく輝いていた。
 フランスの高名な画家が喜んで描きそうな光景だった。
 僕がその場に立ち尽くし彼女に釘付けになっていると、
 彼女はようやく小学校から僕へと視線を移した。
 顔立ちも綺麗な女性だった。
 目元や口元に若干幼さが残るものの、ほっそりとした顎のラインと少し丸みを持った胸のふくらみが、女としての成熟期を迎えていることを示していた。
 おそらく二十歳前後だろう。
 僕より十歳以上、年下なのは間違いない。
 彼女はゆっくりとした口調で話かけてきた。
「ここでなにを?」
 人気の全くない橋の上だ。彼女の質問は至極当然のことだった。

 


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