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作品名:自己観察 作者:奥辺利一

最終回   1
 自分を客観的に観察するとはどういうことだろう? 何事かの判断を迫られたとき、そこに答えの一端が見え隠れしているかもしれない。決断しなければならない事柄の向こうにリスクが隠れているのを察知すれば、人はそれを回避しようとするだろう。当然のことだ。そのリスクが明確な場合には取り立てて問題はないが、それがはっきりしないときはどうすれば好いのだろう。とるべき道が、そのまま進むか、引き返すしかないという場合の判断の仕方はすべて同じだという訳にはいかない。それでも決めなければならないときの悩み方や導き出した結論の違いはどうして起こるのだろう。それは結論を下した本人にとっても分からないことがある。分からないことを考え続けても時間の無駄でしかない。ある場合には、それまでの苦悩を深めるだけの結果しかもたらさないかもしれない。それならばいっその事、何も考えないで流されてみることにしよう。それでも君の人生は、どこかには流れ着くはずだ。誰がこんな投げやりな考えに賛成するだろう。
 それでは、そんなことができるはずがないと言う君に問う。それが許せないというのは何故だろう。君の矜持が許さないからか、はたまた無責任だという誹りを受けるからか。一方で、他人が同じことで悩んでいるとき、君はどんなアドバイスを贈ることが出来るだろう。
 新聞の相談コーナーに、こんな相談が寄せられているのが目についた。彼女は、男女の恋愛について、お互いを尊敬できる人間的な付き合いを望んでいるのだが、その機会に恵まれないことに悩んでいるという。何度か告白されて付き合うことも有ったが、その度に相手の気に入らない部分が目について長続きしないのだそうな。
 彼女の悩みは正当なものだろうか? 恋愛に限らず、自身の生き方に関することで自身の思いを貫くことにどれだけの値打ちがあるのだろう。ひょっとしたら、彼女は潔癖症で、正義感に溢れ、常に高い目標を掲げて生きようとしているのかもしれない。それが駄目だとは言えないが、それが叶わないからと言ってむやみに悩むことが得なことなのだろうか。上手くいかない事にはそれなりの理由がある。その結果、もし努力することが無駄だと思うようになるなら、潔く理想的な恋愛などと言うものは諦めてしまうことだ。いつか君の願いを聞き届けてくれる素敵な男性が現れるはずだなどという好い加減なことは言えない。諦めないことが不可能を可能にしてくれたという話はよく聞くが、そんな素敵な話が全ての人の身の上に起こるとは思えない。諦めないでいれば、その思いが相手の心を動かすだろうとも言えない。
 そこで一つ言えるのは、本当の思いは簡単に諦めきれるものではないということだ。どんなに下品なことでも、あるいは下品なことだから簡単には諦められないのだ。そのような原理に従うのを潔しとしないのであれば、諦めずに闘うことだ。諦めないとは、そういうことかもしれない。そこで君は君の原理と出会うかもしれない。君の原理に従おうとせずに、他人の原理に従おうとするのには無理がある。

 自己などと言うものが存在するのかは分からないが、人が自己と言われる認識を持つのは確かだろう。それは決して揺るがない明確なものではない。それどころか、外部からの刺激に敏感に反応して、絶えず変化し変貌する。それが許せないと憤ることが有るのを認めないわけではないが、それは当たり前のことだと受け入れてしまうしかない。
外界の変化とそれに対する認識のギャップにいつまでも拘泥しようとするのは何故だろう。それまでの自分の認識が否定されるような気がするからか。変化についていけない自分を恐れるからか。そこに迷いが生じるのは仕方がない。自己の外側に存在するものは、それ自体が何かを主張するわけではない。主張するように思えるのは、そのように認識するからだ。その場合に生じる戸惑いに介在するものの一つに他人の存在が有る。僕らは他人の存在によって多くのことに気づかされるのだが、それまで否定しようというのは自己そのものを否定しようという試みに他ならない。そんな気がする。元々実在しない自己ならば、否定しても構わないじゃないかと言う声が聞こえそうだが、身の回りに起こる全ての事象を遮断して生きることを想定するのは難しい。
何かを信じることによって心の平安を得るという経験をすることが有る。それは宗教とか信仰とか、大げさなことではなくても、日常の暮らしの中で数多く発見する。また信じるとか人類の英知だとかを意識せずに心の平安を得ることも出来るだろう。その瞬間を逃さないように生きるのを自己の道理だとすることに抵抗するのはおかしなことだろう。


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