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作品名:Ma cherie 作者:カズ

第1回   ‡プロローグ‡
 腕を伸ばし、空を見る。鉛色の空は、何も映さずに、鉛色の雲を流す。
遠い未来を夢見て、遠い過去を忘れ、それでも生きている。

遠い 遠い 未来の お話

ma cherie…

 世が平和な理由は、誰かの不幸があるから。
リィは窓を隔てて外を見る。赤と闇が交互する夜は珍しくない。
「また、事件?」
「そうみたいだね」
スルリと現れた長い赤毛の男。だらりと垂れ流した前髪で目を隠し、裂けた口元を吊り上げる。
「不幸ね」
「そうだね」
「神海はいつも、同じことしか言わないのね」
「そうだね」
「……」
「どうしたの、リィ」
リィは真っ黒な長い髪をさらりと払いのけた。
「別に」
リィには記憶がない。気がついたら神海のもとにいた。
神海は優しく、おおらかな青年だが、どこか不気味で。
「神海はいつから、この組織にいるの?」
「造られた瞬間(とき)からだよ、リィ」
リィはふぅん。と呟き、再び外を見た。
相変わらずの夜。きっとこれからも続く夜。
ため息をついて、神海を見た。神海は相変わらずの表情で外を見ていた。
「今度はいつ、仕事だろうね。リィ」
「いつだろうね。もう……」
「したくないかい?殺しは」
リィは頷き、目を伏せた。
手が血に染まる瞬間が嫌い。
飛び散る鉄のにおいが嫌い。
消え逝く命が嫌い。
だけど
『死』は、愛おしい。
「不思議ね、殺しは嫌いなのに、魂だけになったモノは愛しいなんて」
「そうだね」
リィは笑い続ける神海を見上げ、ふっと微笑を湛えた。
「魂は裏切らないもの」
「そうだね」
神海は、リィの頭を優しく撫で、リィを見る。
見えない瞳が優しく揺らいだ気がした。


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