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作品名:月と泣き犬 作者:四季

最終回   1
二階から・・・意外にいけるものだ。痛いのは痛いのだけれど。
あの人の家から少し大きな話し声が聞こえてくる。もめてるに違いない。
もめたら好い。たくさんお互いを傷付け合ったら好い。だって今日は私の日だった。

初めて彼の家に招待された。誕生日位ちゃんとお祝いしたいから、と。
今日は少し早く起きてしまった。家を出るのは夕方でいいのにお昼には準備が整っていた。彼の好きなピンクのワンピースを着て、深く帽子をかぶり、お土産を買って彼の家に向かった。
<もうすぐ行くよ! 大丈夫?> いつもの文章を送った。
<OKだよ!待ってるね>   いつもより明るい文章が返って来た。
インターホンを押し、開いてるよ、と言われ、家に入った。
リビングに行くとたくさんの料理が用意してあった。料理下手な彼が頑張って作ってくれたのだろう。茶色だらけのメインディッシュや、緑色だらけのサラダに泣きそうになった。涙を堪えて笑う私を見ながら彼は部屋の電気を消した。
「ハッピバースデートゥユー  ハッピバースデートゥーユー…」
彼が歌いながらケーキを運んで来た。不規則に並んだイチゴ。
男なのに手作り攻撃なんて、不意打ちだ!映画でもドラマでも泣いたことがないのに、自分の日常にこんなにも涙が出るなんて。
24個のロウソクが揺ら揺ら、あったかい。歌が終わり、私はロウソクの火を吹き消した

その、瞬間、ガチャリ、と玄関から音がした。

「あれ〜?居ないの〜?」
私じゃない女の人の声が家の中に侵入してきた。とっさに彼は私の手を引いて二階に上がった。女の人の声はなおも彼の名を呼んでいる。彼は動揺して、何もしゃべらない。二階になんて何で上がったの…?余計家から出られないじゃない。階段を足早に上ってくる音がした。私は彼の手を振りほどいてベランダへ行き、ひと思いに飛び降りた―

大丈夫―靴だって念の為にバックの中に入れておいた。足がじんじん痛むけど、心よりマシだ。
あの人の家から少し大きな話し声が聞こえてくる。もめてるに違いない。
もめたら好い。たくさんお互いを傷付け合ったら好い。

そして、どうか仲直りしてください……。
私はもっと他人を、そして何より自分を傷付けない恋をしなくてはならない。
携帯の電話帳から彼との連絡手段を消した。
満月に似た月が帰路を照らしていた。
一匹の犬が泣いていた。


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