二階から・・・意外にいけるものだ。痛いのは痛いのだけれど。 あの人の家から少し大きな話し声が聞こえてくる。もめてるに違いない。 もめたら好い。たくさんお互いを傷付け合ったら好い。だって今日は私の日だった。
初めて彼の家に招待された。誕生日位ちゃんとお祝いしたいから、と。 今日は少し早く起きてしまった。家を出るのは夕方でいいのにお昼には準備が整っていた。彼の好きなピンクのワンピースを着て、深く帽子をかぶり、お土産を買って彼の家に向かった。 <もうすぐ行くよ! 大丈夫?> いつもの文章を送った。 <OKだよ!待ってるね> いつもより明るい文章が返って来た。 インターホンを押し、開いてるよ、と言われ、家に入った。 リビングに行くとたくさんの料理が用意してあった。料理下手な彼が頑張って作ってくれたのだろう。茶色だらけのメインディッシュや、緑色だらけのサラダに泣きそうになった。涙を堪えて笑う私を見ながら彼は部屋の電気を消した。 「ハッピバースデートゥユー ハッピバースデートゥーユー…」 彼が歌いながらケーキを運んで来た。不規則に並んだイチゴ。 男なのに手作り攻撃なんて、不意打ちだ!映画でもドラマでも泣いたことがないのに、自分の日常にこんなにも涙が出るなんて。 24個のロウソクが揺ら揺ら、あったかい。歌が終わり、私はロウソクの火を吹き消した
その、瞬間、ガチャリ、と玄関から音がした。
「あれ〜?居ないの〜?」 私じゃない女の人の声が家の中に侵入してきた。とっさに彼は私の手を引いて二階に上がった。女の人の声はなおも彼の名を呼んでいる。彼は動揺して、何もしゃべらない。二階になんて何で上がったの…?余計家から出られないじゃない。階段を足早に上ってくる音がした。私は彼の手を振りほどいてベランダへ行き、ひと思いに飛び降りた―
大丈夫―靴だって念の為にバックの中に入れておいた。足がじんじん痛むけど、心よりマシだ。 あの人の家から少し大きな話し声が聞こえてくる。もめてるに違いない。 もめたら好い。たくさんお互いを傷付け合ったら好い。
そして、どうか仲直りしてください……。 私はもっと他人を、そして何より自分を傷付けない恋をしなくてはならない。 携帯の電話帳から彼との連絡手段を消した。 満月に似た月が帰路を照らしていた。 一匹の犬が泣いていた。
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