私はメイリー・レイターだ。 何度も紹介している気もするが、はじめてこの報告書を読む人がいることも考慮して、今回も自己紹介から始めることにする。 私、メイリー・レイターは優秀なる間諜である。 二十五歳の女であり、ちなみに独身である。 ちなみに、彼氏は募集していないので、妙な気はおこすな。仕事一筋なのが誇りである。 そして、家族の期待の星でもある、タルデシカの掛け替えのない存在なのだ。 で、今回の報告は一応、確認のためにしておく。もしかしたら、シノとロナは仲たがいをするかもしれないという報告だ。そうなれば、タルデシカには有利に働くこともあるであろう、と思ったのだが実際のところは分らない。 ロナの付き人として私は、シノの部屋に入り二人の会話を見ていた。 ロナは部屋に入るなり、早口にこう切り出した。 「あなた、この間は何処にいっていたの?」 「この間とは?」 ロナの問いにシノはしれっ、として何でもない風に答えた。 「あなた嘘を吐いたわね。というより、独りでタルデシカに行っていたそうじゃないの。それも勝手にッ」 驚くべきことにシノはタルデシカに自ら足を運んでいたらしい。 「フン。それがどうかしたか?」 「何をしにいったの? あなたは一国の王なのよ? 一応」 「別に。散歩がてら行ったら面白い奴にあった。それだけだ。直ぐに分かった。一目でな。制服を着てるんだからな。見りゃ、誰でも――、……分かる」 ロナは逡巡してから、まさかという顔をした。 「まさか、会ったの? 召喚された子に……」 「会ったとも。偶然だが、訊きたいこともあり、楽しく戦った。しかし、直ぐに決着はついた。はは。今頃、死んでるか、それとも生き延びてるかは知らないけどね」 「あなた、その子には何の執着もないようなことを言っていたじゃないの!」 シノは肩を竦めてみせ、全然悪びれずに言った。 「戦の上では敵ではないと思った。放っておけばいいと。しかし、故郷の様子も知りたくなるというものだろう。だから、会えたらいいなくらいの気持ちで空を散歩していたら、何と偶然にも俺の同郷と会えたんだ。別に問題ないだろう?」 「……信じられない。この間、あたしに、その子供は気に入らないとか言っていたじゃないの。秘密が漏れそうだからって。タルデシカに行って会っていながら、あたしには黙っていたの。あれは嘘なのかしら、そうね、嘘なのね? タルデシカにでも亡命する気――?」 「まさか。その子供のことなど未だに気になどしてはいない。気になったのは、“事件”のことだけだ。それを聞きたかっただけだ。問題など何もないだろうに。そもそも仲良くする理由がないし、興味もないので、実際、戦ったし、今頃死んでいるかもな」 「煩い!」 そのままロナは部屋を出て行ってしまったので、私もついていくしか他はなかったのだ。 会話の内容はよく分からなかったのだが、何かイル殿に召喚された者に関することらしい。そして何やら、シノとロナは現在、喧嘩中であるらしいのだ。しかし、彼らは最低限の戦に関わることだけに関しては協力し合っており、あまりタルデシカに有利に働くとは思えない。 それと、召喚された子供はシノと何処かで接触していたらしい。 注意されたし。
それと、もう一つ。報告が。 どうやら、とうとうタルデシカの未来も終わりを迎えそうであるということだ。何故かって? そんなの、答えは決まっているだろう。
カジミがタルデシカに明日、攻め入るからだ。 敵は“マルロンの要塞”で着実に準備をしている。それを迎え撃つ準備をするか、それとも逃げるか、降伏するかは、王の判断に任せるしかないが、それでもラドルアスカさま、死ぬ覚悟はしておいたほうがいい。 カジミは残虐だ。残酷で、酷薄で、非道である。 よって、タルデシカが負けた場合は、十中八九国民は奴隷扱いであろう。 では、これにて戦争の日時の報告を終える。 追伸. 少々遅かったが金を送金してくれて、ありがとうと一応は言っておこう。遅いぞとも言っておこう。もっと素早く行動してほしいものだな。という文句はさておき、私も、最後まであがくべく、せめてタルデシカが有利になる材料を探してみようと思う。 ロナの秘密を、必ずや探してみせよう。
……では、麗しき間諜の最後の報告を終える。 亡国の間諜予定、メイリー・レイターより
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