U.降臨
ヨハネによる福音書 第一章二九節〜三四節 【 その翌日、ヨハネはイエスが自分の方にこられるのを見て言った、 「見よ、世の罪を取り除く神の小羊。 『わたしのあとに来るかたは、わたしよりもすぐれたかたである。 わたしよりも先におられたからである』とわたしが言ったのは、この人のことである。 わたしはこのかたを知らなかった。 しかし、このかたがイスラエルに現れてくださるそのことのために、 わたしはきて、水でバプテスマを授けているのである」。
ヨハネはまたあかしをして言った、 「わたしは、御霊がはとのように天から下って、彼の上にとどまるのを見た。 わたしはこの人を知らなかった。 しかし、水でバプテスマを授けるようにと、わたしをおつかわしになったそのかたが、わたしに言われた、 『ある人の上に、御霊が下ってとどまるのを見たら、その人こそは、 御霊によってバプテスマを授けるかたである』。 わたしはそれを見たので、このかたこそ神の子であると、あかしをしたのである」。 】
神からの印を受けたから幾日も過ぎたが、ヨハネはまだ何の手がかりも得ることができず、意気消沈しつつあった。 しかし、ついにその日がきた。 それはいつものように川でバプテスマを授けていた時のことだった。
突然、頭の先から足の先まで、一瞬にして熱いものが突き抜ける感覚を覚えたのだ。 ヨハネは、自分の身に起こったことを瞬時に悟ると周囲を見渡した。 すると、一人の男が川の中をゆっくり近づいてくるのを見た。
その男は、彼とさして年も変わらないであろう。 その身なりは非常に粗末なものであった。 しかし、ヨハネはそんなことには気にもとめなかった。 ヨハネは、その男に降り注ぐ天からの光の粒の美しさにだけ見とれていたのだ。
「・・・神の小羊。」
男は、ヨハネの前までくると静かにひざまずいた。光の粒はすでに消えかかっていた。 ヨハネは我に返った。 神の小羊であろう御方が、自分の前にひざまづいているからだ。
「な、なにを?私こそが貴方からバプテスマを受けるはずですのに、どうぞお立ちになってください。顔をあげてください。」
男は何も答えず、ただ下からヨハネの目をじっと見上げた。 彼は不思議な感覚を覚えた。その顔は、以前から知っていたかのようだった。 また、その目は、まっすぐにヨハネの心をとらえていた。 まるで心の底まで見透かされているかのようだが、そこには何の不快感もなかった。 むしろ心にしっとりとした安らぎを感じていた。
ヨハネは、男の無言の言葉に促されるように、静かにバプテスマを授けた。 男は、バプテスマを受けると、立ち上がり川岸へと向かっていった。
「お待ちになってください!」
後ろから声をかけたが、男は振り向きもせず立ち去ろうとしているのだ。 ヨハネは拍子抜けした。 神の小羊に出会ったと思ったのだが・・・。
「・・・違うのか?」
そうつぶやいた瞬間、再び天の雲が開け一筋の光が、去りゆく男の頭上に降り注ぎ、その光の粒が体全体を包みこんでいるのを見た。 そして彼は、声ならぬ声を聞いた。 それは先日、小羊の降臨を告げるのと同じ声であった。
『これはわたしの愛する子、わたしの心にかなう者である。』
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