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作品名:ダ・ヴィンチの福音書 作者:そのうちみのる

第20回   第十章 黙示録 小羊の婚宴
第十章 黙示録 小羊の婚宴

「頭をあげろ!今、毒気を抜いてやる。」
誰かが俺の背中を二、三度強くたたいた。
勢いおされて、喉の奥から何かの固まりがこみあげてきて、たまらずそのまま吐き出した。

「うげっ」
吐き出したものを見て驚いた。
それはミミズのような、小さな蛇だった。
小さな蛇が、身をよじらせながら空中をただよっているではないか。

「心配するな。一匹だけだ。卵も残っておらん。」
目の前の男が、蛇の頭を指ではさむと、ぺしゃっとつぶしてしまった。
蛇は黒い煙と化し消えてしまった。
先ほど見たあいつの最後を思い出した。
あれは何だったんだ?
ここはどこだ?この人は誰だ?・・・体がやけに重い。

「そのまま目を閉じて心を静かにさせていなさい。」
この声は、覚えがある。
もちろん父さんじゃない。懐かしい感じがするだけだ。
さっき、フラン・・・って叫んでいた声だ。誰だっけ?思い出せない。

言われるがままに目を閉じていると、次第に体の緊張がほどけていった。
体だけでない、心の中から軽くなったような気もする。
まるで空を飛んでいるかのような軽さだ。

そして一つ一つの記憶が戻ってきた。
自分のこともようやく取り戻せた気がした。

「もう、大丈夫です。」
目を開けると、『先生』が俺の顔を優しくのぞきこんでいた。

「無事で良かった。」
「知っているのですか?」
「私は君の心に入る力はないが、何があったかはおおよその検討はついておる。」

「・・・昔の事を見させられました。自分が、母を殺してしまったこと・・・。」
「まだ記憶が混乱しているようだな。君のお母さんは今も健在だろう?」

・・・あれ?・・・そういえば。そうだよな。両親は、実家で妹と暮らしている筈だ。

「だがそれはただの夢ではない。もし君がやつに従っていれば、夢が現実の物に置き換わっていたであろう。そして、今の君も、両親も存在しないものになっていたはずだ。」
「そんなこと、できるのですか。」

「やつには人の心を操るなど造作もないことだ。もっとも、やつが操ることができるのは人の邪心だけだ。良心には手も足も出せない。だが、残念ながら我らの体には人類始祖が犯した罪が継承されている。やつの血が流れているのだ。ゆえにその誘惑に良心が打ち勝つことは容易ではない。それがたとえ歴史の偉大な人物であろうとだ。」

歴史の偉大な人物。と聞いて、真っ先にイエスを思い出した。

「イエスは、その誘惑に勝ったのでしょう?」
「四十日断食後の悪魔による三大試練を勝利することはできた。だが、彼一人では神の計画は完成されない。エバの再臨であるマリヤも勝利せねばいけなかったのだ。先に君に話したな?エバは、何故にエデンの園を追放された?」

「天使長ルシファーと、堕落したから・・・。」
「その通り、そしてその後も自分の罪を認めず、責任転嫁していたからだ。・・・マリヤは、エバの失敗を再び繰り返してしまった。」

「だからイエスが十字架にかけられた?」

「神は、イエスを十字架に送ることによって、かろうじて人間の『良心』をつなぎ止めることができたのだ。イエスが人類の罪を贖罪するために十字架にかかられたというのは間違いではない。だが本当の神の願いは、イエスが、神を中心とした模範的な家庭を築き、エデンの園を再び完成させることにあったのだよ。」

「エデンの園って?」

「今の世の中を見たまえ?まるでソドムとゴモラではないか。
人は、外見は大人かもしれないが、中身は子供のような者ばかりだ。
自分の欲望を満たせれば、何でもするではないか?
金が欲しければ、ある者は『力』を悪用する。『力』といっても暴力もあれば権力もある。『智恵』を悪用して詐欺を働く者もいる。法の抜け道を利用して大金を手にする者もいるだろう?
『愛』を悪用する者もいる。この時代は、十代のうちからずいぶんと性関係が豊富のようだな。醜い男の欲望のはけ口にされているのを知ってか知らずか、自らを貶めている彼女らに、まともな家庭が築けるのか?男も同じさ。後悔しても、霊体に刻まれた異性の数は永遠に消えはしない。
学校はどうだ?教師といえど中身は、責任をもたない子供のような大人だ。子供が子供から一体何を学べというのだ?幼い内から自分の欲望ばかり主張させていれば捻れた大人になるのは当然のことだ。子供のうちから自己の欲望をコントロールできるように教育せねばならんのに。
いや、教師の責任でもない。子供の教育は家庭で行うのが基本だ。
だが、その親も中身は子供だよ。中にはまともな親もいるが、親が子を殺し、子が親を殺す事件が日常的に起こっているそうではないか?
皆、自己中心であり、自己の欲望を満足できればそれで良いと思っている。
都合の悪いことは、人の責任にするのだ。
個人や家庭の次元を越えて国のレベルにしても同じだ。
自国の利益ばかり追求し、争いが絶えることはない。
それに今は地球レベルの環境破壊も深刻だろう。
大国が何の対策もせずに資源を使い果たし、二酸化炭素を吐き出し続ければ地球の生態系もくずれる。天変地異だって人間の欲が引き起こすものだ。
最も国レベルと考えると責任の所在があいまいになるので、我々個人のことと考えた方が良いだろう。
要するにだ。我々がいつまでも、自己の欲望のままに何でもしておったら、この地球というエデンの園から人類は追放させられるということだ。」

「人類が滅びるとでも?」
「兆候を感じたことはないかね?」

「・・・神は人を愛してくれてるっていいませんでしたか?」
「『三度目の正直』というこの国の言葉はなかなか興味深い言葉だ。」
「三度目?」

「下を見なさい。私が見た『印』を見せてあげよう。」
「下?」

その時はじめて気がついた。ここはやけに薄暗いな、としか思っていなかったのだが、下に見えたのは・・・地球だった。

「えええ!浮いてる?飛んでる?」

自分の足場が何も感じられないのに今、気がついた。でも、落ちてる感じはしない。

「今の我々は肉体のない霊体だ。どの空間にも行こうと思えば行くことができる。大気圏を越えて宇宙にでも行けるぞ。」
「でも、さっき背中を叩かれた痛みは感じましたよ?体だってあるじゃないですか。」
「それは君の霊体が体の感覚を記憶しているだけのことだ。あの蛇も下等の悪霊だ。君の霊体に溶け込もうとしていたので排除したのだ。それより、下を見なさい。美しいだろう?」

先生が下を指さした。これは確かに地球にちがいない。息を飲むほど青く美しい。
テレビで見たのと同じ地球の表面が見える。
広大な地形、中国大陸であろうか。
その側に、あった日本だ。やっぱり日本は小さいな。

「どうだ。マリヤは美しいだろう。」
・・・この人は千里眼の力でもあるのか?

「マリヤがどこに見えるのですか?」
「・・・私の教訓が理解されていないようだな。まあいい。いずれみえる時がくる。さあこれからだ。」
「あれは・・・。」

日本に異変が起こった。いや、日本だけでない。隣の大陸や遠いアメリカ大陸、ヨーロッパの方にも薄暗い雲のようなものが地表から沸き立ち、渦を巻きはじめた。その動きは生き物のようだ。まるで、いくつもの蛇がからみあっているかのように見える。

そして、日本の地の黒雲がほんの数秒動きを止めたかと思ったら、黒雲の下が一瞬光り、続いて大きなキノコ雲が吹き上げた。・・・あのキノコ雲は、原爆?
そんなまさか!

「父さん!母さん!」

「心配するな。これは、過去に世界を巻き込んだ戦だ。」
「・・・第二次世界大戦なのか。」

申し訳ないが、ほっとしてしまった。過去でよかった。
すぐに、二発目のきのこ雲があがった。長崎だろう。
言葉がでなかった。
過去の事とはいえ、あの地上では何十万の人々が一瞬で死にいたったのだ。
助かった者も、その苦しみは計り知れない。
原爆の恐ろしさは写真やTVでしか知らないけど、彼らはそれを身を持って体験しているのだ。

『死』を目前にして、今の自分が安全な場所にいることにほっとした。
ふと、ヤコブ達のことを思い出した。
残酷な『死』の影を見せつけられるほど恐ろしいものはないのだ。

「・・・これが、『印』ですか。」
「これは『不幸な出来事』の一つだ。私はこの光景を見て、未来が再び神の悲しみを繰り返してしまっていることに愕然としたものだ。そして、今度こそ人類はエデンの園から追放させられると思ったよ。しかし、『印』がこの後に現れたのだ。」

先生は語りながら、地上を指さした。
世界中がまだ暗雲に包まれている中、雲の下からはじけるような光が一筋、空に昇った。その光の筋は次第に柱のように太くなっていく。
その光にはじかれながら、まわりの黒雲がどんどん薄らいでいった。
薄れた雲の隙間から光の柱が立っている地形が見えた。あれは・・・。

まもなく日本の上空も変化が始まった。
その光を受けてやはり雲が薄くなり切れ間を見せていった。
そして、同じような現象が世界中の大陸にも広がりを見せていった。
やがて小さな光が地上にいくつも灯り始めた。
それは雲が晴れていく夜空の星を見ているようだった。
ポツポツと世界の星が光をとりもどしていく。
最初にできたあの光の柱が、まるで太陽のようだ。
星は太陽の光を受けて、光を放つからだ。

「・・・きれいだ。」
「あれが『印』だ。あれらの光は、霊界の放つ祝福の光だ。普通、肉体をもつ者には見えない光だが、霊感の優れた人や霊の者は見ることができる。
最初の光の柱が『小羊の婚宴』の印だ。再臨のマリヤは、かろうじて小羊を産んでいたのだよ。その小羊が婚宴し、その権能により、世界に救いの光がともされる。」
「救いの光ですか。」

「こんなところで立ち話もなんだ。そろそろ戻ろうか。」


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