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作品名:ダ・ヴィンチの福音書 作者:そのうちみのる

第10回   アダムとエバ 失楽園
第七章 アダムとエバ 失楽園

「アダムとエバが蛇の誘惑でリンゴを食べたという創世記の話ですか?」
「リンゴではない。聖書には『善悪を知る木の実』と記されているが、『木の実』も象徴的な言葉だ。」
「・・・象徴ですか。」

「もし、木の実を食べたことが罪となるのなら、人は神の前に口を隠していただろう。
もし、手が罪を犯すなら手を背に隠すだろう。だが、彼らは陰部を葉で隠した。それは、彼らが陰部で罪を犯したことを意味している。」

「性行為を持ったということですか?」

「そうだ。・・・神はアダムを造り、その助け手としてエバを造られた。神はアダムとエバが成長したら、結婚をし子孫を増やされることを望んでいた。その神の計画に、邪魔を入れたのが、蛇に象徴された天使長ルシファーだ。本来ルシファーは、ミカエル・ガブリエルらと供に神の創造の助け手として、アダム・エバより先に神によって造られた天使だった。そしてルシファーは知の天使長として、神から最も信頼を受け、愛を受けていたのだ。それは、神の右の座に位置するかのような存在であった。しかし、天地創造の最後にアダムとエバが生まれた時、ルシファーは知ってしまったのだ。神は、自分たち天使よりも人間を、より愛されていることを。なぜなら天使には肉体がない。しかし、人は肉体をもって子を繁殖する力も与えられている。人は繁殖によって地に満ち、万の物を治める権能も許されていた。その明らかな違いに、彼は人をねたむようになったのだ。」

「それで、エバに善悪を知る木の実を食べるよう誘惑したということですか?」
「ルシファーはエバと性的交わりを行ったのだ。」

「でも、天使には肉体がないのでしょう?性的に交わるってどうやって?」
「人間は、『霊』と『肉体』から成り立っている。天使はエバの『霊』を犯したのだ。本来エバは、アダムと結婚する予定であった。しかしアダムと初愛を迎える前に、ルシファーと性の体験を霊的に行うことによって、霊的に堕落したのだ。そして、神の戒めをやぶった事が怖くて、神に告白もできず、結局エバは、アダムをも巻き添えにしてしまった。」

創世記 第三章八節〜一三節
【 彼らは、日の涼しい風の吹くころ、園の中に主なる神の歩まれる音を聞いた。
そこで、人とその妻とは主なる神の顔を避けて、園の木の間に身を隠した。
主なる神は人に呼びかけて言われた、
「あなたはどこにいるのか」。
彼は答えた、
「園の中であなたの歩まれる音を聞き、わたしは裸だったので、恐れて身を隠したのです」。
神は言われた、
「あなたが裸であるのを、だれが知らせたのか。
食べるなと、命じておいた木から、あなたは取って食べたのか」。
人は答えた、
「わたしと一緒にしてくださったあの女が、木から取ってくれたので、わたしは食べたのです」。
そこで主なる神は女に言われた、
「あなたは、なんということをしたのです」。
女は答えた、
「へびがわたしをだましたのです。それでわたしは食べました」。 】

「アダムもエバも、自らの罪を進み出て告白するでなく、神の顔を避けて隠れておった。神に問われて、やっと告白するが、二人ともその答えはどうだ?人に責任のなすりあいだ。責任転嫁しているのだ。さすがに神は、このまま二人を許すことはできなかった。
エデンの園より追い出し、彼らが自らの責任によって罪の悔い改めをするまでは、エデンの園に入ることは出来なくなったということだ。ルシファーは堕天使として、蛇に象徴され地の底に落ちた。後のサタンだ。」

「・・・何かおかしいですよ。」
「何がかね?」

「神は全部見えていたんじゃないですか?だって神というからには全知全能なんでしょ?ルシファーがエバを誘惑しようとした時に、神の力によって止めることもできたんじゃないですか?」
「神は、もちろん知っていただろう。止めることもできたはずだ。」

「それなら見て見ぬふりをしていた神が一番無責任だったってことでしょう?」
「理由があるのだよ。」
「どんな理由だっていうんですか?」

「人が自らの責任によって、『悪しき誘惑』を退けることができる力を得させるための試練だったのだ。人は、この試練を乗り越えた時に、はじめて『完成』した『大人』になれたということだな。人が、悪しき誘惑を退けて『完成』していたならルシファーも人に対して自ずと屈服していたことだろう。」

「なんだって、そんな試練を与える必要があるんですか?」
「だから、『人格ある大人』にするためだよ。人はこれから繁殖して地に満ち、万の物を治めていく者だからだ。もし人が、自分の欲望もコントロールできない子供のような人格しか持つことができなければ、そのような人々であふれたこの地上はどんな世界になる?」
「・・・・。」

「人の主たる欲望は何だ?『愛』を得ることだよ。なぜなら創造された神が『愛』の主体だからだ。神は『愛』を得たいが為に、その対象として人を創造されたのだ。人が完成することによって神が最も喜びを得ることができるのだ。それはあたかも、親が子を産み育てるのと同じだ。親は、産まれる前から子の環境を整えるだろう。成長していく様を見守り、時には手を離して独り立ちさせねばならない事もある。子が伴侶をもうけ、さらに子を産めばよりいっそうの幸福を感じるのが親の愛というものだ。神は、人を通じてその様な『愛』を得たかったのだ。神は人を愛していた。しかし、知の天使長であるルシファーは、そのような神の計画を察していた、だから神が最も愛する、美しいエバの愛を欲したのだよ。」

「天使には責任はないのですか。」
「無論あっただろう。だが、責任の重さは人の方にあったということだ。エバは、天使の誘惑があった時、それを退けなければならんかった。だが、アダムもエバも自分の欲望もコントロールできない十代の子供だった。もし彼らが、自分の未熟さを自覚していたら、まず親である神に相談せねばならんかったのだ。それをせずに、自分の幼い判断と欲望に主管された結果が、エデンの園の悲劇となったということだ。」

「エデンの園の悲劇が、イエスたちにも起こったと?」
「そういうことだ。エデンの園の話がわかれば、ペテロらの行動も理解しやすいだろう。」

先生は、聖書を黒のショルダーバックにしまいこむと体をこちらに向け、俺の手をしっかり握りしめた。

「え?」
「ここから先は、自分の目と耳で知るが良い。ダ・ヴィンチが見たものを君にも見せてあげよう。」
「え?」

先生の言葉が終わるか否やのうちに突如、目の前の景色がぐるぐる回り始めた。
そう、まるで二人で遊園地のコーヒーカップに乗っているかのようだ。
いや、コーヒーカップがこんな高速で回ったら大変だろう。
違うここはただのベンチだ。遊園地ではない。

なんで目が回ってるのかわからない。
もう気持ち悪くて目が開けていられない。
自分はたぶんへたりこんだに違いなかった。


「おい、大丈夫か?しっかりしなさい。」

誰かの声が聞こえる。
頭がクラクラして、乗り物酔いしたように気分も悪い。
もう少し横になっていたいけど、しつこく自分を揺り起こす人がいるから仕方ない。

ゆっくりと目をあけると、側に男の人がいて俺の顔をのぞき込んでいる。
いわゆる中東系の顔の外国人だ。
気分の悪いのもこらえて、慌てて起きあがった。

「大丈夫です。なんでもないです!」

一体どうしてたんだろう。頭が重い。
地についた手には草の感触がある。
地面の上で転がってたのか?・・・っていうかここはどこだ?

「目が覚めたか?」

外国人は言った。日本語で。
・・・いやまて。日本語か?
耳には、まったく聞いたこともないような言語が聞こえた。
でも、男の言葉は理解できた。そう、頭の中でだ。
まてよ。さっき自分も変な言葉を言っていなかったか?

「・・・・っ。うわ!」

手で口元をぬぐった瞬間、さらに驚いた。
髭がある!鼻の下と口のまわりにモワモワの髭がある!
頭!・・・髪も違う!。
それになんだ、このビラビラした小汚い服は?浦島太郎になったのか?。

「心配するな。まあ落ち着きなさい。」

目の前の男の口から出る言語とは別に、頭に直接聞こえる声は聞き覚えがあった。
そう、あの『先生』の声だ。

思い出した。さっきまで公園のベンチで話こんでたはずなんだ。
それが急に頭がクラクラして、気がついたらこうなっていたということだ。
でも、目の前には、まったく別人の外国人。・・・ありえないだろ。

「どうなってる?」

・・・やっぱり、俺の声も変だ。・・・頭がおかしくなったのか?

「これはトリックではない。ちょっと君を時空旅行に招待させてもらっただけのことだ。ここは二千年前のイエスが生きている時代だよ。」

・・・絶句した。

「・・・ありえない!過去に行くなんて、そんなことできるわけないじゃないか。」
「君の話す言葉はどう説明するのかね?その姿は?ありえないことが現実に起こっていることが身をもってわかるだろう?」

「これは俺の体じゃない。きっと夢でも見ているんだ。」
「もちろん『それ』は君の肉体ではない。借り物だ。君の肉体は、未来のあの場所でベンチにもたれて眠っているよ。ここに来ているのは、我々の霊体だけだ。」
「霊体って?」

「人は、霊と肉体から成り立っている話はしたろ?肉体や物質は時空を越える事はできないが、霊体は可能だ。ただ、そのままでは、ふらふらと時空をさまようことになってしまいかねないのだ。固定した時間と場所に存在するためには肉体に入らねばならない。そこで、この人達の体を少しの間、拝借しているというわけだ。なに、心配しなくても良い。私たちが帰ったあとは、この体の主は自然に意識が戻る。ほんの少し眠っていてもらうだけのことだ。」

「絶対夢だ!幻覚だ!」

「夢か幻覚かは、自分が最後に判断すれば良いことだ。こんな事は滅多にないぞ。認めたくなければ夢で良いではないか。夢はいつか覚めるのだからな。」

思いっきり深呼吸を繰り返した。
落ち着け自分。落ち着け自分。夢だ。夢だ。
少し毛色の変わった夢を見ているんだ。
・・・そう、夢なら問題ない。開き直るしかなかった。

「わかりました。でも、いつかは覚めますよね?必ず元に戻れますよね。」
「私の側にいれば問題ない。だが私を見失えば、君の夢は現実に変わる。その瞬間、君は未来に存在しなくなってしまう。」
「ちょっちょと!マジですか?」
・・・ろれつが回らない。

「東洋人は、こちらの人々の顔を見分けるのは至難の業であろう?私を見失わないように。では、行こうか。」
「どこへ?」

俺は慌てて立ち上がり、先生の服の袖をつかんだ。なにしろ見失ったら最後だ。

「園だ。」


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