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作品名:one-way traffic 作者:ティルト

第7回   7
 程なくして私は帰路に着き、駐車場までとぼとぼと歩きながら、また物思いにふけっていた。
 あの人への恋情の炎が燃え盛っているいるときは気付かなかったけど、今は下火になったので気付いたことがある。ちなみに私は、人より無駄に物事を考えるタチなので、思考の進みが速い。

あの人に恋をしたのか、あの人の私への扱いに恋をしたのか

 あの人への恋に、不純物が混ざってきたような。
 いや、違うな。元々不純物はあったんだ。私が見なかっただけで。そのとき見えなかっただけで。
 私はたぶん、恋人さんとのやりとりに本来の自分を全て出し切れていない。だから得られるものも、奥まで届かない。幸福感や満足感は途中までで力尽きてしまう。
 でも私の深奥は昔から押し込めてきたから、もうそれが普通で、出すのは恐いし出し方もわからなくなってしまっていた。なのに。
 あの人が私に、私の知らないキスの仕方で私の唇を犯したときに、えもいわれぬ感覚が体を駆け抜けて、それだけで私はテンパってしまって、後がもうしどろもどろってカンジだった。でも、そのときの不思議な充足感が忘れられなくて。普段『そういうコト』と縁のなさそうに見える思い人の『そういう姿』を見て、恋をした。
 あの、私を本来の型に嵌めてくれるような不思議な感覚が忘れられない。あの人は私を『女』にしてくれた。あのとき私は、自分が女でいることを感じられた。私はずっと、それを求めていたのかもしれなかった。

だからこれは、恋じゃないのだろうか

 そう考え始めてから、焦がれる様な思いが少しずつ去っていき、その隙間に喪失感と哀愁が居を構え始めた。おまえらでてけ。
 ふと空を見ると、晴れ渡った夜空に星が少しだけ見えた。私は目が悪いので星は少ししか見えない。この空から見たら私も恋人さんも思い人も、同じところにいるように見えるのだろうか。この空は私のしていることを見て嘲笑うんだろうか、思い人みたいに苦笑するんだろうか、恋人みたいに無邪気に笑うんだろうか。

 そんなことを考えていたら、不意に横から叩きつけられた衝撃が、私の思考と意識を叩き切った。視界にはライトのついていない車が見えた。でも、そこまでだった。





 毎日退屈だった。
 白い壁か、窓からの空か、文庫本か、マンガ。それしか目に映すものがないのは退屈だ。
 あの日私は事故に遭った。っていうかライトの電球が切れてた車が私に気付かず私をはねた。住宅街の細い道で、ですよ。ありえないですよ。ライトついてなきゃ車きてないと思うじゃん。考え事してる私に、ライトの点いてない車に注意するなんて無理無理。
 というわけで私は病院で暇な時間を過ごしていた。内臓少々と、骨とかけっこう逝ってしまっててまだまだ退院はできそうにない。幸い四肢に障害は残らないようだ。
 午後五時、今日は水曜日だから、きっと来るな。
 と思っていたら病室のドアがゆっくり開いて、カバンを提げた恋人さんが入ってきた。
「あ、今日は起きてたね。」
 こないだ恋人さんがきたとき、私は爆睡中だったらしい。
「本の続き持ってきたよ。退屈でしょ?」
「うん、助かるわ〜」
 事故にあった翌日、恋人さんは仕事を休んで私の様子を見に来た。でも私は集中治療室にいたので会えなかった。私の親から様子なんかを聞いて、とりあえずその日は恋人さんは帰ったらしい。気付いたら手紙だけ、置いてあった。
「体、どう?」
「う〜ん、特に変わりはないかな。とりあえず上半身だけでも動かすようにしてる。」
 それから恋人さんは毎週水曜に私を見舞うようになった。時間があると水曜以外にも来る。無理しなくていいよ?と言ったのだけど、恋人さんの家から近いし、私の家に来るのと違って親とかに気兼ねしなくて済むから来たいだけ、と言ってよく会いに来る。
「読み終わった本回収しちゃうね。どれ?」
「えっとね、そこの山は読み終わったかな。」
「うわ、大分読んだね。」
「だって暇なんだもん。」
 私はため息をついた。そんな私の頭を恋人さんは撫でて、いつもどおりフレンチなキスをしてくれた。
「じゃぁまた来るね〜」
「無理しないでいいからね〜」
 最近お決まりになったいつもどおりの挨拶で今日の逢瀬は終了。外はもう暗かった。
 こないだ、無理しなくていいよ、というのを、恋人さんは、私が会いたくないと思ってるんじゃないかと言った。別に会いたくないわけじゃない。ただ、申し訳ないんだ。
 恋人さんが今私にしてくれてるように私はできないと思う。だから、お返しができないから受け取りたくない。そんな気持ち。してくれた分だけ同じように返さなきゃいけないと思うと億劫で、根本から投げ捨てたくなってしまうのは私の悪いところだ。きっと恩を着せる気もないだろうし、私が同じようにしなくても恋人さんは文句は言わないだろう。
 ただ、私が納得できない。だからいつか返さなきゃいけないと思ってしまうようなモノをもらいたくない。そう思う人を、冷血とか酷薄とか言うのだろうか。
 私の愛は、質が悪い上に、自分中心で、そして小さいのだろうか。そう考えると、あのとき私をはねた車が、トラックだったらよかったのに、などと思わずにはいられない。
 昨日担当医に、もっと歩けるようになったら心療内科の方を受診してみないかと言われた。


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