今更かもしれないけど、私には自傷癖がある。かなり昔から。でも常にというわけじゃない。まったくない時期もあれば酷い時期もある。罪悪感とか閉塞感とか恐怖感とか、そういう耐え難い負の感情の始末の仕方がわからなくて、自分で自分を罰することで、一時的な平穏を得るしか、私は思いつけなかったようで。 最近は、どうもそのことすらわからないくらい、心が錯乱というか倒錯というか解離というか、思考の視野が極端に狭くなることがあるようだ。 「ちゃんと病院には行ってるの?」 「一応・・・」 「そう、早くなんとかしないとね。」 「ねぇお願い、私を責めて。」 「どうして?」 「だって怒ってる、恨んでる、憎んでる。それが当たり前だもの。私を責めないのはおかしい。あなたが我慢する理由無い。我慢させてるのつらい。」 「あのね、怒るとか恨むとか憎むとかってのは、傷つくってのとは違うものなのよ?」 「だってあなたはそんなに私のためにしてくれてるのに、私はそんなあなたを愛しながら裏切ったのよ?」 「私を傷つけたいからそういうことをしたの?」 「違う!違う!そんなことしない!」 もう私は八割がたパニックをおこしていた。 「じゃぁ、いいじゃない。」 そんな様子のおかしくなってきた私を恋人さんは抱きしめてくれた。息が荒くなって震えている私を安心させようと、しっかり抱きしめてくれて、頭を撫でてくれた。 しばらくして、私も落ち着いた。そんなことができる恋人さんはすごいと思ったのは、出会ってから数十回を超えただろう。 「・・・捨てない?私を捨てない?」 「咲が私を捨てなきゃ捨てないよ。」 「うん・・・ごめんなさい・・・」 「でもね、やっぱり嫌だよ、そりゃぁ。」 「うん。」 「どうしてもそれが咲には必要なのかも、とわかってても、やっぱり嫌よ。」 「うん。」 それ以上、何も言わなかった。 嫌、とだけ。だからあれをするな、だからこうしろ、とか何も、言わなかった。これが、愛ってやつなのかしら。もしそうなら、私は世界で一番質のいい愛をもらってる自信がある。
この日、恋人さんは私を心配して、そのままウチに泊まってくれた。親にも私に代わって事情を話してくれた。 この夜私は、何年ぶりかくらいに、安心して眠りにつくことが出来た。指先には世界で一番私を安心させてくれる人の肌が触れてて、目を開ければ世界で一番私を愛してくれてる人がいる。こんな幸せは私にはもったいない。でもこの幸せは誰にも渡さないわ。私だけのものよ。
この日、私の中で、愛は恋に、勝った。
「さてさて、今日はどこに行こうか?」 「海と山で選ぼう。」 「じゃぁやっぱ海ね、海。」 「よし決定。」 相変わらずいつもの四人を乗せて、涼ちゃんの運転する車は道路を走っている。 相変わらず私の隣には綾さんがいて、助手席には鈴ちゃんがいる。 変わったのは、私があの、運転席から助手席に向く熱視線に攻撃をしなくなったことと、運転席の後ろに座っている私から見える横顔を見ても、胸が苦しくなくなったこと。 心配していたけど、概ねこの状況は変わらなかった。 私が以前まで要求してたことを要求しなくなったのに、元思い人は多少の違和感を感じたかもしれないけど、たぶんその辺何があったのかはわかってくれる人だと思ってる。 綾さんからは安心したような吐息を聞く事が多くなった。なにげに私を世界で二番目に心配してくれてるのは綾さんかもしれない。 「海っつったらとりあえず、あそこ行くかあそこ!」 「あ〜、いつものところだね〜?」 「うん、行こう。」 そんなわけで、以前マンガのシーン探しツアーで行ったあの海辺へ、また辿り着いた。 今回は快晴の昼。季節は夏の終わり。すっきりした空と、海のにおいを運ぶ生ぬるい風が私たちに吹き付けてくる。 やっぱり四人で歩いて、そして少ししてからバラけた。 私は、元思い人を追った。 「また追ってきちゃった。」 私は風でばさばさとまとまらない髪を手で抑えながら、元思い人に話しかけた。 「決めたわ、私。」 「そっか、うん、ちょっぴり寂しい気もするけど、まぁそれが最良ね〜」 「だからこれからは、あなたの恋の成就をなんとかしなきゃね。」 「って相談会はまだ続くの!?」 「こんなことがあっても私を捨てなかった私の恋人が、それくらいのことを容認しないわけがないじゃない。」 「うああ・・・こっちは全然進展してないんだよぅ・・・」 「それはあなたが下手にでちゃうからでしょうが!もっと強気にっていうか惚れた弱みに付け込まれすぎだっての。」 「いや、だって、ね?私に恋してたんだからわかるでしょ〜?!」 「わからん。私の恋はそんなプラトニック指向でもないしそんな緩やかでもないしそんな穏やかでもない。ガーッといってガーッっと結果出しなさいよ。」 「む、無茶言いよるわこの子・・・自分は吹っ切れたからって・・・」 「あら、あなただって吹っ切ればいいじゃない。」 「それができないのが恋ってやつでしょうが〜!!!」 「そうね、それはごもっとも。」 頭を抱える元思い人を見ながら、私は笑顔でそう言った。
恋は難しい。
愛するのはもっと難しい。
愛し続けるのはもっともっと難しい。
でも
誰もね、できない、とは言って無いのよね。
気付かせてくれてありがとう。実らなかった私の恋。 愛を深めさせてくれた私の恋。 一時のときめきをくれた私の恋。 私の知らない私を教えてくれた私の恋。
私の恋、ありがとう。でも、私の恋、ばいばい。
|
|